歯科医師が答える!患者さんの歯の負担を減らす「M.I治療」ってなに?
歯科医院のホームページには、たいてい診療方針について書かれたページがあります。大事な情報なので、初めての歯科医院に行く前にはチェックするという人も多いかと思いますが、その中で「M.I治療」という言葉を見かけたことはないでしょうか?
昔の虫歯治療は再発防止が第一で、虫歯とその周辺組織を大きく削って詰め物をするのが普通であり、酷い虫歯なら神経を取って被せ物をするのが常識でした。
しかし今は自然の歯を大事にし、できるだけ治療部分を少なくすること、すなわち「M.I治療」が一般的になっています。その特徴やメリット・デメリットを紹介していきます。
M.I治療の最優先事項は「歯を長持ちさせること」
M.I治療の「M.I」とは、ミニマル・インターベンション(Minimal Intervention)の略称で、日本語では「最小限の侵襲(しんしゅう)」と訳されるものです。
「侵襲」とは歯科治療における歯を削ること。つまり歯の治療において周辺組織や神経へのダメージをできる限り抑えて、本当に悪い部分だけを治療するという治療法です。2000年の国際歯科連盟で初めて提唱され、その後徐々に日本の歯科界にも浸透し、現在では歯科治療の常識となりつつあります。
歯は一度削ると元には戻らないものです。虫歯治療には、歯と詰め物の隙間で虫歯菌が繁殖するなどして虫歯が再発したり、神経を取った場合は歯が脆くなり割れやすくなったりするなどのリスクもあります。
それを踏まえて、安易に歯を削らず、自然の歯をできる限り守っていくことが、M.I治療の基本的な考え方です。
虫歯予防もM.I治療の一環
従来の治療法との一番の違いは、既に虫歯になってしまった歯の治療だけを問題にするのではなく、「自然の歯を守る」という観点から虫歯の予防や初期治療を重視することです。
次のようなものも、「M.I治療」の一環になります。
●初期の虫歯は削らず、再石灰化で治療すること
歯の表面(エナメル質)に穴があく前のごく初期の虫歯は、削らずにフッ素塗布による歯の再石灰化を促すことで治療または進行を予防できます。
●口の中の虫歯菌を減らすこと
デンタルフロスを使った丁寧なブラッシングやPMTC(歯科医院で専門の機器や技術を使って行う歯のクリーニング)を受けるのが効果的です。
●歯を削る場合は、必要最小限の量にすること
マイクロスコープ(肉眼の約20倍)や拡大鏡(約2~8倍)を導入し、より精密な治療を行っている歯科医院が増えています。レーザーなどでの治療は、一般的な歯を削る機械に比べて、先が細いのと歯質を殺菌しながら削る(蒸散)ので、削る量を減らす事ができます。
●虫歯の早期発見
虫歯を早い段階で見つけることができれば、削らずに治療できる可能性も高くなります。多くの歯科医院では、3~6ヶ月に1度のメインテナンスを奨励しています。現在はレーザーで虫歯の深さを測る機械「ダイヤグデント」で歯を削るか再石灰化か判断することができ、状態にあわせた治療を行うことができます。
M.I治療のメリット・デメリットは?
どんなにインプラントや入れ歯の技術が進歩し、体に優しい詰め物の素材が開発されても、自然の歯に優るものはありません。
「M.I治療」の最大のメリットは、なんといっても歯にかかる負担が少なくなるので、歯の寿命が長くなることに尽きます。
1989年の厚生省(厚労省)「成人歯科保険対策検討会中間報告」によれば、口内に20本の歯があれば、食べ物をかむことは容易にできるとされ、そこから当時の平均寿命80歳でも20本の歯を残そうという「8020運動」にもつながりました。
こうした主張と運動は現在の厚生労働省にも引き継がれています。
<参考>厚生労働省 e-ヘルスネット 「8020運動とは」
また従来の方法に比べ、治療回数は少なくて済むのもM.I治療の特徴です。一方、デメリットとしては、1回あたりの治療時間が長くなること、歯の根にまで達するような大きな虫歯では従来の方法と大差がないことなどがあげられます。
まとめ
世界的に見ると、歯科治療は「痛くなったら治す」時代は終わり、「M.I治療」が常識になっています。
「歯科治療の内容はどこも同じ」と考えてしまいがちです。このように基本となる考え方により、同じ症状の虫歯でも治療法が変わってくる場合もあります。
歯科医院選びの参考にしてみてください。
<参考>
日本歯科医師会 8020運動
医科歯科ドットコム編集部コメント
こうした考えが広まるのは良いことですが、治療時間を短くすませたがる歯医者さんがいる、という話をしばしば耳にするのも事実ではないでしょうか。
出来る限り患者に寄り添った、信頼できる歯医者さんに診ていただきたいものですね。
監修日:2019年12月12日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医
人気記事
-
1
-
2
-
3
-
4
-
5