注意していても歯はなくなる!?歯の曲がり角の40代で困らないために!
あなたは、将来の自分の歯について想像したことがあるでしょうか?「5年後、10年後、20年後も今と変わらないお口でいられる」と信じ込んでいませんか?実は、40代で歯を失ってしまうケースは、決して珍しいことではありません。「私は毎日きちんと歯磨きをしているから大丈夫!」と思った方も要注意です。毎日歯を磨いていても、若くして歯を失う可能性は十分にあります。しかも、場合によってはその治療に数十万円の費用がかかってしまうことも…。突然の大きな出費は、誰だって避けたいものですよね。そこで今回は、歯を失うリスクとその治療について、歯科医師の秋山 恵里奈先生にお話を伺いました。「虫歯も痛みもないし大丈夫!」という方こそ、ぜひチェックしてみてください。
虫歯がない人ほど歯を失いやすい!?
若くして歯を失ってしまう方に多いパターンは、歯磨きはきちんとしていたものの5年以上歯科医院にかかっておらず、なんらかのきっかけで受診したところお口の状態が非常に悪かったというものです。
厚生労働省の統計によれば、2012年には全体の47.8%の人しか、歯科検診を受けていませんでした。
非常に多いケースとしては、「親知らずを抜いた大学時代から虫歯になっていないし、一度も歯科医院にかかっていない」というものです。
世界の先進国に比べてオーラルケアへの意識が低いといわれる日本では、歯に痛みやトラブルがない限り歯科医院に行かないという傾向があります。そのため、虫歯にならない方は歯医者で診てもらう機会がなく、気が付いたときにはお口の状態が非常に悪いという事態に陥ってしまうのです。では、虫歯がないにもかかわらず、なぜお口の状態が悪くなるのか…。それは、歯周病にかかっているからということになります。
歯を失う原因の第1位は、虫歯ではなく歯周病!
歯を失う原因の第1位は虫歯ではなく歯周病です。その割合は42%にも及びます。虫歯は第2位で、32%となっています
(厚生労働省 e-ヘルスネット「歯の喪失の原因」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-04-002.html)
歯周病の恐ろしいところは、重症化するまで自覚症状がほとんどないことです。歯茎に腫れや赤みが出るものの、ほとんどの方は気が付きません。
痛みを感じたり、歯が揺れてきたりといった状態になったときには、病状はかなり進行しています。歯ブラシを歯茎に沿ってあてたり、歯間ブラシを通したりして出血するようなら、歯周病を疑うべきでしょう。
では、なぜ歯磨きをしていても歯周病になってしまうのでしょうか?
実は、毎日の歯磨きだけだと、歯垢などの汚れの約61%しか落とせていないということがわかっています(日本歯科保存学会「歯間ブラシの歯間部のプラーク除去効果(2005年学会誌)」)。しかも、歯磨きにかける時間についてアンケートを取った前述のリサーチバンク調査によると、5分以下と答えた方が全体の82.5%を占めるという結果も出ています。
秋山恵里奈先生によると「歯磨きは15分以上かけて行うのが理想的」といわれる一方で、実際にはほとんどの方が十分に歯を磨けていないのです。また、歯周病は歯と歯茎の間にある空間「歯周ポケット」で起こることが多いですが、毎日のケアにデンタルフロスや歯間ブラシを使っている方は15%以下であることもわかっています。
なお、「私は15分以上かけて歯を磨いているし、デンタルフロスや歯間ブラシもきちんと使っている」という方も、残念ながら万全とはいえません。なぜなら、ケアの仕方には「癖」が出てしまうからです。手の動かし方や時間のかけ方などの違いで、どうしても場所によって仕上がりに差が出ます。十分に磨けていない部分が少しでもあると、そこから歯周病が進行してしまうのです。
このように、セルフケアに時間や労力をかけていたとしても、歯科医院で定期的に状態をチェックしてもらうこと、プロに汚れを落としてもらうことは必要不可欠といえるのです。
喫煙者はさらに歯周病のリスク大!
歯周病のリスクを高める大きな要因として、喫煙も挙げられます。その理由は、まずタール(ヤニ)による影響です。タバコを吸うと歯が茶色く着色してしまいますが、これはタールが歯に付着することで起こります。そのタールの表面はザラザラしており、歯垢(プラーク)が付着しやすいのです。歯周病は歯垢の中に潜む菌によって起こる病気であるため、喫煙は歯垢が育つ環境を作り、歯周病リスクを高めるといえるでしょう。さらに、ニコチンによる影響もあります。タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させる作用を持っています。血管が縮んでしまうと、酸素や栄養分が十分に行き渡らなくなり、免疫細胞の活動が制限されて抵抗力が落ちてきます。お口の中がこの状態になることで、歯周病がさらに進行してしまいます。
そして、本当に危険なポイントは、喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病の進行に気が付きにくいことです。免疫力の低下により、通常は起こるはずの炎症反応が起きにくくなり、自分では歯周病であることになかなか気が付けないのです。先述したとおり、歯周病はただでさえ自覚症状があまりない病気です。喫煙でより気が付きにくくなると、非喫煙者よりもさらに重症化した状態で発見されるケースが多くなります。長らく歯科医院に行っていない、しかも喫煙習慣がある…。そんな方は、一日も早く歯科医院を受診することをおすすめします。
治療費が気になって受診しにくい…その心配は不要です!
「歯科医院には何年も行っていないから、すぐにでも診てもらったほうがいいみたい…。でも、急に高額な治療費がかかったら困るから、心配でなかなか受診できない」と考えている方は多いはずです。確かに、広範囲にわたって治療をしたり、歯を抜いて義歯を入れたりという治療を行えば、まとまった費用がかかりそうですよね。しかし、必要最低限の治療(保険治療)であれば、驚くほど高額になることはありません。場合にもよりますが、義歯を作成・装着したとしても、1本10,000円程度でしょう。歯1本の治療に数万円と高額な治療費がかかるのは、自費治療(自由診療)を選択した場合です。この場合は、見た目や機能性をどこまで求めるかによって、金額が変わります。治療費の抑制を最優先にしたい場合は、その旨を歯科医師に伝えれば、保険内で治療を進めてくれます。治療費がネックになっている方も、まずは検診を受けてみてください。
どんなケースで治療費が高くなるの?
では、治療費が高くなるケースには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
【ケース1】自費専門の歯科医院にかかった場合
歯科医院の中には、自費治療を専門的に提供しているところがあります。この場合、保険内でカバーできる治療を行った場合でも、その歯科医院が定める金額を支払う必要があり、治療費が高くなることがあります。自費治療を専門にする歯科医の治療費は、歯科医師が「自分のスキルに対してつけている金額」または「良い材料を使って治療するための金額」になります。歯科医師の仕事は、知識と技術を駆使して患者さんのお口のトラブルを解決することです。その知識・技術に自信がある場合、そこにプラスアルファの報酬を求めることは自然なことといえるでしょう。また、保険診療だと制約が多すぎて思うように治療ができないと考える歯科医師が、患者さんのためにベストの治療をしたいと自由診療をすすめるのも理解できます。このような歯科医院には、「自費治療であっても、この先生に診てもらいたい」という患者さんが集まってきます。費用が気になる場合は、保険治療を扱っている歯科医院(歯科医院のほとんどはこれに該当します)を選ぶようにしましょう。
【ケース2】歯を削った部分を自費の詰め物・かぶせ物で補った場合
検診の結果、虫歯があることがわかり、治療で歯を削って、その部分に詰め物やかぶせ物を入れることがあるでしょう。その詰め物・かぶせ物に自費の素材を使用した場合も、治療費が高くなります。
保険治療の場合、「金銀パラジウム合金」と呼ばれる、いわゆる銀歯を詰めますが、見た目や歯への影響などの観点から自費でセラミックやゴールドなどを詰めるという選択肢があるのです。
それぞれの価格は、おおよそ以下のとおりです。
素材 | 詰め物(インレー)の費用 | かぶせ物(クラウン)の費用 |
---|---|---|
ゴールド | 30,000~60,000円 | 50,000〜10万円 |
セラミック | 30,000~60,000円 | 50,000〜15万円 |
ハイブリッドセラミック (セラミックにプラスチックを混ぜた物) |
30,000~50,000円 | 50,000〜10万円 |
金銀パラジウム合金(保険治療) | 1,000~2,000円 | 3,000~7,500円 |
削る範囲が広範囲に及び、ブリッジ(2本以上の歯にわたるかぶせ物)になった場合は、これよりさらに高額な費用がかかります。
【ケース3】抜けた部分をインプラントで補った場合
重度の歯周病になると、歯を支えている歯茎や骨が破壊され、やがて歯が抜けてしまいます。その場合、保険治療であれば部分入れ歯や、両隣の歯で支える「ブリッジ」を入れることになりますが、どうしても噛み心地や見た目のクオリティは下がってしまいます。それを解消してくれるのが、インプラント治療です。インプラント治療とは、骨にネジ(これをインプラントと呼びます)を埋め込み、そこにかぶせ物(義歯)を装着する治療です。安定性や見た目に優れていますが、大掛かりな外科処置が必要になるため、費用は高くなります。相場としては、1本30万〜60万円といったところでしょう。
ここで確認しておきたいのは、上記のいずれのケースも、患者さんの希望を叶えるための治療であるということです。「治療費が少々高くなっても良質な治療を受けたい」「今の噛み心地を損ないたくない」「きれいな見た目にしたい」という方に対して提供されています。最近では、日本よりも歯に対する意識が高い海外の歯科医療情報に触れる機会が増え、より質の高い仕上がりを求める方が多くなっています。つまり、「治療費が高いことは問題ではない」という方が増えているのです。一方で、治療費に関するトラブルのほとんどは、希望していないにもかかわらず、過剰な治療(高額な治療費がかかる治療)をされた場合に起こります。このようなトラブルを防ぐためには、歯科医師とコミュニケーションを十分に取り、初めの段階で治療内容や費用をしっかりと理解しておくことがポイントです。「自分の体のことは自分で決める」という意識を持ち、きちんと納得できるまで話を聞いてから治療を受けるようにしてください。
若くして歯を失うという事態を避けるためには、セルフケアを正しく行うだけではなく、かかりつけの歯科医院で定期的に検診やクリーニングを受けることが必要不可欠です。それさえ徹底していれば、いつまでも自分の歯でおいしい食事を楽しめるでしょう。大切な歯が病気になる前に、もしくは最小限の被害に食い止められるように、ぜひ歯科医院に通う習慣をつけてくださいね。
<参考>
歯に関する調査(2015年)|リサーチバンク
永久歯の抜歯原因調査|8020推進財団
歯間ブラシの歯間部のプラーク除去効果(2005年学会誌)|日本歯科保存学会
医科歯科ドットコム編集部コメント
大切な歯を守るためにも、こまめに歯科医院へ通うことが重要なのですね。またいざ歯を失ってしまった際には、多くの選択肢があるようです。記事の中に大体の各選択肢の相場は登場しましたが、より詳しく知りたい方は医科歯科.comで調べてみましょう。各歯科医院ごとに治療法別で値段が書かれています。
監修日:2019年12月10日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医
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