【硬い物を食べて歯が欠けたことはありますか?】歯が欠ける重大な4つのケースを歯科医師が解説!
突然ですが、歯が欠けたことはありますか?
硬い物を食べて「歯が欠けてしまった!」という投稿が、SNSなどで話題になったことがありました。
この話題を受け、「硬い物を食べて歯が欠けてしまったという方は結構多くいますよ」と語るのは、歯科医師 秋山恵里奈先生。
歯が欠けることはとても身近なリスクであり、お口からの注意信号でもあるのです。
そこで今回は、歯が欠ける原因や歯の性質について、秋山恵里奈先生に詳しく話を伺いました。
「自分の歯は強いから大丈夫」と自信がある方もない方も、この機会に歯が欠ける原因と、そもそも「歯が強い・弱い」とは何かについて学んでみませんか?
健康な歯が食事で欠けてしまうことはあるの?
健康な若者が食事をしていて歯が欠けてしまったという話を聞いて、あなたはどんな感想を持ちますか?
「きっと生まれつき歯が弱い人だったのだろうな…」と考える方は多いでしょう。
歯も体の一部であるため、遺伝で性質に差が出るのは当然のことです。
しかし、秋山恵里奈先生は次のように話します。
「食事で歯が欠けてしまい、歯科医院に来られる方はたくさんいます。ただ、虫歯のない健康な歯が食事だけで欠けることは、まずありません。」
事故などで物理的に強い衝撃が加わった場合、または無意識に種や骨などの硬い物を噛んでしまった場合を除き、健康な歯が物を食べるだけで欠けてしまうことはあまりないというのです。つまり、先に触れたあずきバーの例も、歯の強弱の問題だけではないと考えられます。では、食事をしていて歯が欠けてしまうというのは、いったいどのような状態なのでしょうか?主なケースとして、以下の4つが挙げられます。
ケース1 欠けてしまった歯が、実は虫歯だった
歯が虫歯菌に侵されていると、その周囲の歯が欠けやすい状態になります。虫歯は歯の横側や下部から進行することがあります。
こうなると、少しの衝撃で歯の大部分が欠けてしまうこともあるでしょう。
また、過去に虫歯を治療して詰め物を入れた場合も、その周囲が欠けやすくなります。これは、歯よりも硬い詰め物によって歯が少しずつダメージを受けることが原因です。歯は削れば削るほど脆くなるといわれますが、詰め物を入れても虫歯になる前と同じように強い状態に戻すことはできないのです。
ケース2 欠けてしまった歯に神経が通っていなかった
過去の歯科治療で神経を除去した歯も、非常に欠けやすい状態になっています。
これは、神経が機能しなくなることで酸素や栄養素が供給されなくなり、歯に「しなり」がなくなってしまうことが原因です。
柔軟性がなくなると、少しの衝撃でも吸収できなくなり、欠けやすくなってしまいます。
また、神経がないことで噛んだ感触が伝わりにくくなり、余計な力がかかってしまうという点も歯が欠ける原因の1つです。
ケース3 酸蝕歯だった
酸蝕歯(さんしょくし)とは、お酢や柑橘類といった酸が強い食品やビタミンCのサプリメントなど、酸性の物を頻繁に口にすることでエナメル質が溶けてしまった歯のことです。これにより、虫歯と同様に歯が欠けやすくなります。全体に歯が黄ばんでいたり、透けていたりする場合は、酸蝕歯の可能性があります。
ケース4 歯ぎしりや食いしばりの習慣があった
歯ぎしりや食いしばりをする習慣がある場合も、歯が欠けやすくなります。日常的に強い力が歯に加わることで、歯にダメージが蓄積され、食事などの些細なきっかけで欠けてしまうのです。歯ぎしりや食いしばりは、歯が欠けること以外にも、頭痛や肩凝りなど全身に悪影響を及ぼしますので、早急に治療する必要があります。
上記のように、食事で歯が欠けてしまう場合、歯に何らかの異常がある可能性が高いと考えられます。冒頭で秋山恵里奈先生が「歯が欠けるのはお口からのサイン」と教えてくれたのは、こういうことだったのです。欠けた範囲が小さかったとしても、同じように欠けてしまいそうな歯がある可能性があります。必ず歯医者さんに診てもらい、その原因となる異常を解決するようにしましょう。
なお、歯が欠けてしまった際の注意事項としては、強い痛みがある場合は鎮痛剤を服用して、速やかに歯科医院を受診してください。
痛みがない場合も、欠けて穴になった歯に汚れが溜まらないように、歯ブラシなどでしっかりとケアしましょう。できるだけ早く歯科治療を受けるようにしてください。
「歯が強いor弱い」よりも気にすべきは「お口の病気リスク」
歯が欠けることに対して、歯が強い・弱いということはあまり関係ありません。ただ、そもそも自分の歯が強い、もしくは弱いのかは気になるところでしょう。
ライオン株式会社が2013年に行った「自分の歯の“いい歯度”は何%だと思うか?」というアンケートによると、「60%以下」と答えた方が全体の71.3%を占めました。自分の歯に自信を持っている方は、あまり多くないようです。
歯が強い・弱いという概念について、秋山恵里奈先生は次のように教えてくれました。
「歯の強い/弱いという性質は、確かにあります。それを決定する大きな要素は、やはり遺伝ですね。
でも、歯の強さを調べる検査はないんですよ。私たち歯科医師が診れば判断できないことはありませんが、それはあくまで相対的に評価するものです。
それに、お口の健康は歯だけで構成されているものではないので、歯の強弱だけを評価すること自体にあまり意味はないといえますね」。
秋山恵里奈先生によると、歯の強弱よりも気にすべきなのは、虫歯や歯周病などの病気になりやすいお口かどうかということ=お口の病気リスクなのだそうです。
歯自体が強くても、そのほかの要素で虫歯や歯周病になりやすければ、意味がないからです。歯の強弱とは違い、お口の病気リスクは検査で調べることができます。具体的には、以下の3つの検査が挙げられます。
1. 唾液検査
唾液を採取して検査することで、唾液の量や再石灰化(酸で溶けた歯を修復する働き)を起こす力、虫歯菌(ミュータンス菌や乳酸菌)の数などを測定します。これにより、「今、お口がどのような状態にあるのか」「虫歯になってしまった場合、どれくらいのスピードで進行していくのか」ということがわかります。
2. 歯周病検査
歯周病菌が潜む歯周ポケットの深さを調べたり、レントゲンを撮って歯槽骨の状態を確認したりして、歯周病の有無とリスクを判定します。歯周病は自覚症状がほとんどないといわれている病気なので、こうした検査を受けることは非常に有効です。
3. 歯科ドック(デンタルドック)
唾液検査よりもさらに深く病気リスクを知るには、歯科ドックがおすすめです。歯科ドックは名前のとおり人間ドックの歯科版で、唾液検査や歯周病検査だけでなく、以下のような項目もチェックしてくれます。
・模型採取による噛み合わせの確認
・顎関節の状態の確認
・ダイアグノデント(虫歯検出装置)などを使った見えない虫歯の検査
※歯科ドックの詳細は歯科医院ごとに異なります。
自身の病気リスクを知れば、適切な予防ができ、お口を健康な状態に維持できるでしょう。たとえ歯が弱くても、きちんと対策を立てて虫歯にならないようにしていれば問題ありません。
「歯を強く」するためにできることはある?
では、健康なお口を維持するための一環として、歯を強くする方法はあるのでしょうか?これについて、秋山恵里奈先生は以下のように話します。
「歯を強くする方法はありません。なぜなら、歯は『リモデリング(再構築)』するパーツではないからです。
例えば、どんどん新しくなっていく爪は、食べ物などを変えれば若干性質が変わることもありますが、生え変わらない大人の歯はリモデリングすることはありません」。
このように、歯の質を後天的に変えることはできないのです。ただし、以下のような方法で歯を表面的に強化することは可能です。
歯をサポートする食べ物を摂取する
歯の機能をサポートしてくれる食べ物を積極的に摂るのは、おすすめの方法です。例えば、歯の再石灰化を助けてくれる栄養素は、ビタミンDです。バターや牛乳、青魚、キノコ類などに多く含まれています。さらに、歯茎からの出血を防ぐためには、ビタミンCが欠かせません。柑橘系のフルーツや緑黄色野菜を積極的に摂取するといいでしょう。
また、これから歯が作られるお子さんの場合は、カルシウムやリン、ビタミンAを十分に摂って、丈夫なエナメル質を作ってあげる必要があります。牛乳や骨ごと食べられる小魚、大豆製品、海藻類を多く食べさせてあげるようにしましょう。
歯にフッ素を塗布する
歯の表面を覆うエナメル質を強化するためには、フッ素を塗布することも有効な方法です。歯科医院で塗ってもらうこともできますし、フッ素入りの歯磨き粉を使えば、自宅でも手軽に塗ることができます。なお、世界に目を向けてみると、「フロリデーション(Fluoridation)」という方法を取り入れている国も多く見られます(アメリカやイギリスをはじめとした60ヵ国以上)。
フロリデーションとは、水道水や飲料水にフッ素を添加することで、多くの人の歯を守っていこうという取り組みです。実際にアメリカでは水道水にフロリデーションを取り入れ、虫歯を50~70%抑制したという効果が確認されています。
フッ素の過剰摂取のリスクがあるため、今のところ日本では取り入れていませんが、今後は取り入れられるかもしれません。歯が欠けてしまう原因、そして歯の性質についておわかりいただけたでしょうか?大切なのは、歯の強弱を気にすることではなく、お口全体に目を向けて、頻繁にチェックとケアをすることです。それさえ徹底していれば、どなたでも健康な歯の状態を維持していくことができます。「うちの家系は歯が強いから」などと過信したり、その逆にあきらめたりすることなく、自分の力で歯を守っていきましょう!
<参考>
水道水フロリデーション|厚生労働省
医科歯科ドットコム編集部まとめ
歯が欠けるのは様々な原因があるんですね!予防のために定期的に歯医者を受診してみませんか?
監修日:2019年10月10日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医
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