歯科医師監修!「差し歯」と「かぶせ物」は別物、その違いとは?
虫歯の治療や事故などで歯の神経を失ってしまったとき、差し歯やかぶせ物を入れるという処置を選択することになります。決して珍しいとはいえない治療のひとつですが、皆さんは差し歯やかぶせ物とはどんな物か、正しくご存じでしょうか?
「差し歯は見た目が悪く、“差し歯にした”ということがわかってしまう」
「差し歯にしたらお口が臭うようになる」
なんとなくネガティブなイメージを持っているものの、詳しくは知らないという方が実は多いのではないかと思います。そこで今回は、差し歯やかぶせ物のあれこれについて、歯科医師の秋山先生に教えていただきました。若い方でも、転んだ拍子に歯が折れてしまったら、差し歯のお世話になる可能性は十分にあります。ぜひこの機会に、正しい知識を身に付けておきましょう!
意外と知らない「差し歯」の基礎知識
まずは「差し歯」とはそもそもどういう物を指すのか、また、構造や治療費はどうなっているのかを確認しましょう。
差し歯ってどんな物?
差し歯は、虫歯の治療などで歯の大部分と神経を失った部位を補うために使われます。「歯の大部分を失う」という状態についてもう少し詳しく説明すると、歯の根を残して、それ以外の部分を失ってしまうという状態です。
歯を抜いてはいないけれど、見えている部分がほとんどがない状態です。そこで、かぶせ物を支える人工の土台とかぶせ物を一緒に作って、一体型の物を残っている歯の根に差し込み装着するのです。この状態のことを、差し歯と呼びます。
差し歯はよくかぶせ物(クラウン)と混同されますが、このふたつはまったく異なります。かぶせ物は、完成形の見た目こそ差し歯とあまり変わりませんが、支えている土台とかぶせ物を別々に作る所が違います。
なお、昔は差し歯治療が、歯の中の神経を失った時の治療の支流でしたが、現在はかぶせ物で治療することがほとんどです。
また、インプラントも差し歯と間違えられがちな治療法です。
インプラントは差し歯と違い、完全に歯を失った状態で選択されます。歯を支える骨(歯槽骨)にネジを打ち込んで、その上に被せ物を装着します。
秋山恵里奈先生によると、自分の歯はインプラントであると勘違いしている患者さんは少なくないのだそうです。「『私はインプラントです』と言われて診察したら、被せ物がセラミックの差し歯だったということは多いんですよ。
治療費が高かったのでインプラントだと勘違いしてしまったのだと思います」。
差し歯やかぶせ物の治療費はどれくらい?
「差し歯やかぶせ物は治療費が高いのでは?」と不安に思う方は少なくありません。手間がかかる治療なので、心配になるのは当然のことでしょう。
しかし、保険適用の差し歯なら、治療費はおおよそ3,000〜8,000円。基本的には10,000円以内に収まります。治療費が高額になるのは、保険適用外の素材でできた土台やかぶせ物を選択した場合です。
経済的な事情と仕上がりのレベルとの兼ね合いを考えて、自分に合った物を選択しましょう。
一度装着した差し歯やかぶせ物はずっと使える?
差し歯は歯の根っこに土台を差し込みますが、その歯には神経がないので、健康な歯に比べて脆くなっています。
そのため、噛む力の負担に耐えられなくなって割れてしまうことがあります。これを「歯根破折(しこんはせつ)」と呼び、特に噛み合わせが強かったり、差し歯がブリッジの土台になっていたりする場合は、折れるリスクが高いといえるでしょう。
歯が折れてしまったら、インプラントや入れ歯、左右の歯で支える「ブリッジ」といった治療に切り替えることが必要です。
このように聞くと、「いずれダメになるなら、差し歯にする意味がないのでは?」と思うかもしれません。しかし、生まれ持った歯に勝るものはないというのが歯科治療の基本です。根だけでも歯が残っているなら、かぶせ物にするのがおすすめです。
これについて秋山恵里奈先生は、「確かに、土台を入れたかぶせ物には歯の根が折れて使えなくなってしまうリスクがあります。
しかし一方で、何のトラブルもなく長年使えている方がいるのも事実です。いずれインプラントや入れ歯を入れるとしても、それまで使用する価値は十分にあります」と語っています。
かぶせた歯を長く&快適に使うポイントとは?
かぶせ物を装着するとなれば、できるだけ長く使いたいところです。そのポイントは、メインテナンス(定期検診)にあります。かぶせ物に限ったことではありませんが、何らかの治療を行った歯は、虫歯になりやすい傾向があります。
かぶせた歯と歯の境目に汚れが溜まって虫歯菌が繁殖してしまうのです。そうやって虫歯になると、歯の根元が折れるリスクが高まります。
面倒でも、これまでより高い頻度でメインテナンスに通い、きちんとプロにチェックやお掃除をしてもらうこと。これを徹底することで、治療した歯の寿命を延ばすことができます。
また、「差し歯を長く使っていると嫌なにおいがするようになる」という声もよく聞かれます。
これには2つのパターンが考えられます。1つは差し歯やかぶせ物が臭っているケース、もう1つは差し歯やかぶせ物が外れかけて空洞ができているケースです。
差し歯やかぶせ物が臭うのは、プラスチックの素材が使われている場合にありがちです。プラスチックには、においを吸収する性質があるのです。気になる方は新しい物に替えるか、においがつかないセラミックを選択するといいでしょう。
そして、差し歯やかぶせ物が外れかけている場合は、もちろん修復が必要です。
どちらにせよ、差し歯やかぶせ物が臭うようになったら、早めに歯科医院に行くことをおすすめします。
「差し歯やかぶせ物=見た目が悪い」は間違い!見た目を左右するのは被せ物
「差し歯やかぶせ物にすると見た目が良くない…」。そんな声もよく聞かれます。
しかし、これは誤った認識です。見た目にこだわって作られた被せ物を選べば、差し歯やかぶせ物でも天然歯に限りなく近い仕上がりになります。
具体的には、おもに以下のようなものが挙げられます。
オールセラミッククラウン
セラミック(=陶器)でできたかぶせ物。真っ白でツヤがあり、天然歯と同じく光を通しますので、治療をしたことがわからないくらいの仕上がりを目指せます。
また、金属を一切使っていないので、金属アレルギーの方でも安心して使えます。※クラウン=かぶせ物
ハイブリッドセラミッククラウン
セラミックにプラスチックを混ぜた被せ物。見た目も強度もオールセラミックには劣りますが、価格は安くなります。
オールセラミックと同じくメタルフリーのものもあるので、金属アレルギーの方でも安全です。
ジルコニア
人工ダイヤモンドとも呼ばれるセラミックの一種です。
高い強度と体への親和性が特長ですが、価格はセラミックと同等、もしくは若干高くなっています。
かぶせ物は前歯でも奥歯でも、場所を選ばずに行うことができる治療です。目立ちやすい前歯をかぶせ物にする場合は、上記のような自費素材を選ぶのもいいかもしれません。
また、かぶせ物にすると歯茎が黒くなってしまうという声もよく聞かれます。これは、かぶせ物に使われている金属が溶け出すことが原因です。
つまり、金属が一切入っていないメタルフリーのかぶせ物にすれば、歯茎が黒くなってしまう心配はありません。
素材も活用方法も進化している!最新の差し歯事情
歯科医療は日進月歩。素材も治療方法も、どんどん進化しています。差し歯やかぶせ物でいえば、これまで土台は金属製の物を使うのが主流でしたが、最近ではグラスファイバーでできた土台も使われるようになりました。
グラスファイバーを使うメリットは、金属よりも柔らかく、歯にダメージを与えないことです。
これにより、歯根破折のリスクを低減でき、かぶせ物を長く使い続けられる可能性がアップするのです。
また、かぶせ物は基本的に歯を失った際の治療として活用されますが、審美治療で使うこともあります。正常な方向に生えていない歯を削り、残した歯根に土台を差し込んで、被せ物を正しい方向に装着するのです。
歯を抜くことなく見た目を整えられるため、「1本だけ歯が変な方向に生えている」といった場合に有効な治療法といえるでしょう。
差し歯やかぶせ物と一口に言っても、さまざまな選択肢があることがおわかりいただけたかと思います。「満足のいく治療」は人によってさまざまです。
土台とかぶせ物、それぞれ自分に合った物を選ぶことが大切なポイントになります。治療が必要になった際は、ぜひ本記事を参考にして、自分にとって最良の治療を選択してくださいね。
医科歯科ドットコム編集部まとめ
さし歯とかぶせ物という違いだけでなく、それぞれの中でも様々な種類があったとは驚きですよね。値段も違うしどれにすればいいのかわからない、ということもこれからありそうです。
そんな時は、医科歯科.comをご利用くださいね!
監修日:2019年12月18日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医
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