注射を嫌がる子どもには「自分で選ぶ」が効果的!【子ども医療の専門家 CLS に聞く】
病院に行くことや、注射を受けることは、子どもの頃は特に嫌なものですよね。
今回は、診療や注射を嫌がる子にはどう対応したらいいのか、家庭でも覚えておきたい方法を病院で子どもの不安や恐怖心を軽減し、心理社会的支援をおこなうチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)協会の会長を務める井上絵未(いのうえ えみ)さんにお伺いしました。
医療の現場で病院嫌いの子どもと向き合うCLS
CLSとして対応が一番多いのは入院をしている子ですが、次に多いのは病院が大嫌いな子です。
外来で来たけど採血しなきゃいけないのは絶対嫌だ!と外来を逃げ回っているだとか、泣いて言葉を発してくれない、目すら合わせてくれない子がいると呼ばれることがあります。
普段一緒に仕事している小児科のスタッフはCLSのことをよく知っているので、小児科外来の看護師さんなどが、この子はCLSが関わるとよさそうだなと判断をして依頼をされます。
子どもと話しながら何が嫌なのか、どう進めればできそうかを一緒に考えていきます。
子どもがこれならできる!という選択肢の用意が重要
採血を嫌がっているお子さんには、紙芝居や絵本などを使ってなぜ痛い思いをして血をとらなければいけないのか、という説明をします。
次に、ぬいぐるみを患者さん役にしたお医者さんごっこで採血の手順を伝え、何をされるのか分からないという怖さを和らげます。
さらに、採血の手順の中で子どもたちが選べる選択肢を写真で示したボードを見て、どうすればできそうかを一緒に考えます。
その内容は、たとえば「注射をするお部屋に入るには、どうやって入ろうか?」といった質問で、
【1】おうちの人の抱っこで入る
【2】自分で歩いていく
【3】おもちゃの車に乗っていく
というようないくつかの選択肢から子どもに選んでもらいます。
そして注射をする際にも、「ちっくんされる時は抱っこがいい?自分で座る?」「ちっくんしてる間もこの中から好きなことしてていいよ。どれにする?」と選んでもらいます。
採血自体を「できる」「できない」という2択で子どもに考えてもらうと「嫌だからできない。やらない。」となるのは当然です。
ですが、手順を1つ1つに分けて考えてもらうと、お部屋に行くのは抱っこならできるね、自分で座るのもできそうだね、と「できる」ことを積み重ねることができます。
この積み重ねにより採血自体も「できそうかな」と自信がもてるようになります。
子どもが選べる要素があることで、注射も「される」だけでなく、「どうしたらできそうかな。」「好きなことで遊びながらだったらできそうかな。」と子どもも参加しながら進めていくことができます。
他に夢中になることで怖さや痛みは減らせる
怖さや痛みを和らげる方法として、注意転換というテクニックがあります。
子どもは同時に複数のことを考えることがまだ得意ではありません。
大人は、嫌なことに対して様々な方法を使って向き合う方が多いと思います。
たとえば、仕事は嫌だけど、終わったら今日はおいしいもの食べるんだと思って気持ちを紛らわせて出勤する、などといった感じです。
ですが、子どもは目の前に起こる嫌だと思うできごとで精一杯で、目の前にないものを使って気持ちを紛らわすことは困難です。
実際に目に見えるもので、頭や身体を使って痛み以外に集中できる活動が効果的です。
怖いという思いに専念させず、かくれんぼ絵本などを開いて、キャラクターがどこにいるんだろうと考えたり、万華鏡を覗くなどして楽しさやわくわくする気持ちを取り入れることで、怖さをやわらげることができます。
また、怖さの緩和は痛みの感じ方の緩和にもなるといわれています。
自分で選ぶことで子どもの自信につながる
子どもにとって医療は特に「される」ことばかりですが、その中で1つでも自分で選べると、自分がこれは決めてやったことなんだ、自分もこうやって参加したんだ、されるばかりじゃなく一緒にしたんだという経験になっていきます。
入院していた期間も、治されるだけでなく、自分もチームの一員として治した、先生たちも仲間だったんだと思えるようになります。
自分で選んだことで、それが成功すると自信も生まれます。うまくいかなかった場合も次の機会に向けて一緒に考えてくえる存在がいて、一緒に乗り越えていくことで信頼関係も育まれます。
最初だめだったけど次はできた、というのも自信になります。
すべてがうまくいくわけではない、というのが人生です。人生の荒波を乗り越えていくスキルもつかむということも重要なことです。
子どもが自分で選んで動いてみるという後押しができるような関わりを、子どもたちと接する現場でも大事にしています。
医科歯科ドットコム取材
取材日:2020年2月19日
プロフィール
済生会横浜市東部病院こどもセンター チャイルド・ライフ・スペシャリスト
米国Association for Child Life Professionals(チャイルド・ライフ協会)認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト
社会福祉士
〈経歴〉
2002年 立教大学コミュニティ福祉学部卒業
2003年 社会福祉士取得
2007年 米国カリフォルニア州ラバーン大学大学院教育学部チャイルド・ライフ専攻修士課程修了後、チャイルド・ライフ・スペシャリスト認定を受ける。
大学院在学中、米国カリフォルニア州CHOC Children’s(チョックこども病院)にて720時間(およそ半年)のチャイルド・ライフの臨床実習を経験。在学中、病院や病児キャンプでのボランティア活動に参加。
2007年7月より現職。済生会横浜市東部病院は、全国でも珍しい小児肝臓消化器科を有しており肝臓消化器慢性疾患の子どもたちへの心理社会的サポートを中心に活動を行っている。また、がん診療連携拠点病院・救急病院であり多部署・多職種との連携により子育て世代のがん患者、救命救急患者の子どものサポートに力を入れている。
2019年 チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会会長に就任。
チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会
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