【災害時の心のケア】ストレスに上手に向き合うことが“レジリエンス”を育む
春が近づくこの時期は3.11を思い出す方も多いのではないのでしょうか。震災を経験した子どもや大人も不安や恐怖心などを克服することは難しいかもしれません。
医療をはじめとするストレス状況下にある子どもと家族が危機的な状況や喪失体験と向き合う過程を支援するチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)という職業があります。
そのCLS協会の会長を務める井上 絵未(いのうえ えみ)氏から「災害時のトラウマのある子ども」に対してどう接したらよいか伺いました。
災害のあとは今の安全・安心を子どもたちと共有しましょう
子どもたちが過剰に心配することがないよう、今この場所が安全であることを伝えることが大切です。
子どもが慣れ親しんだ生活リズムや生活パターンを保つことで安心できる環境を整え、「もし次にこういうことがあった場合には○○しよう」とできる対応を一緒に考えておくことも子どもの安心につながります。
――トラウマにならないようにするにはどうしたらいいですか?
トラウマにならないかどうかの判断はとても難しいことです。ストレスを感じたときに、そのストレス反応が起こるのは大人でもある当たり前の心の動きなので、かえって抑制しすぎないことが大切です。
怖いと思うことも当然の気持ちであることを共有し、どのようにその状況に向き合っていくのかを一緒に考えるとよいと思います。
心配になっても、いつもの「食う、寝る、遊ぶ」ができていれば大丈夫
何か問題が起きたとき、子どものことを思うあまり親御さんがすごく心配になり、自分たちだけで何とかしようと思ってしまいがちです。
ですが、子どもは「食う、寝る、遊ぶ」の3つができていれば大丈夫と昔はよく言っていたように、それができていれば基本的には大丈夫である場合が多いです。
もちろん子どものことを良く知っているのはお母さんたちなので、お子さんの「食う、寝る、遊ぶ」の3つがしっかりできているかを見ていただき、それが普段と何か違うと感じたり、違和感があると思われた場合は、普段のお子さんの様子を知っている方、例えば通園先や学校の先生に家庭以外での様子を聞いたり、適切な機関に相談されるとよいと思います。
家の中だけで抱えすぎると、親御さんもどんどん神経質になってしまい、親子関係がぎくしゃくする場合もあります。
外部の専門家に相談することで親子ともに気持ちが楽になれる場合も多くあります。
子どもが感じていることやストレスを否定しないことが重要
ストレスを感じずに生きている人はいませんので、まずはそのストレスとどう向き合っていくかという力を付けてあげることが必要かと思います。子どもがストレスを感じて反応を示していることに対して否定しないということが大事です。
人の気持ちを100%理解することは親子であっても難しいです。まして、子どもは自分の気持ちがはっきりわかっていない部分もあり、また大人のように、感情をうまく言葉にすることもできません。
上手く表せない気持ちをなんとか伝えようとしているところを否定してしまっては、子どもの気持ちを無下にしてしまいます。
ですので、子どもが言っていることを否定しないで聞くことが重要です。
子どもの言葉に耳を傾け、「そうなんだ。そうなんだ。」と共感することが大事です。そのときに、ついアドバイスをしてあげたくなりますが、まずは「どう思っているの?」と聞くことを大切にしていただきたいです。
子どもも一人の人として、尊重することが大切です。親御さんには親御さんの、お子さんにはお子さんの自分の考え方があります。その違いもふまえて他の人と違う考えがあってよいこともお子さんに伝えられるとよいと思います。
ストレスに上手に向き合うことで立ち直る力“レジリエンス”が身につく
今ストレスを感じている子どもたちが、その乗り越え方を見つけられれば、この先に何かまた違う出来事があったときも、試したやり方をやってみようと家族や子どもの中で経験が蓄積されます。
それが子どもたちが大きくなっていく上での強さになっていくと思います。
医療は、マイナスなイメージをもたれがちですが、そこで得た強さと言うのはその先の人生で糧になることがたくさんあると思います。その強さに気が付けるようにお手伝いするのがCLSの活動のベースになっています。
ですのでご家族も、お子さんが何かストレスを感じたときはそれを一緒に解決し、乗り越える中でご自身やお子さんの強みを見つけて、その先の将来にもつなげて欲しいと思います。
ストレスに直面した経験を、次につなげていく、立ち直っていく力のことを“レジリエンス”といいますが、それはだれでも身につけることができます。
子どもたちが自分でストレスの向き合い方を身に着けていく部分もありますが、ご家族と一緒に向き合う中で見つけていけるといいなと思います。
取材日:2020年2月19日
プロフィール
済生会横浜市東部病院こどもセンター チャイルド・ライフ・スペシャリスト
米国Association for Child Life Professionals(チャイルド・ライフ協会)認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト
社会福祉士
〈経歴〉
2002年 立教大学コミュニティ福祉学部卒業
2003年 社会福祉士取得
2007年 米国カリフォルニア州ラバーン大学大学院教育学部チャイルド・ライフ専攻修士課程修了後、チャイルド・ライフ・スペシャリスト認定を受ける。
大学院在学中、米国カリフォルニア州CHOC Children’s(チョックこども病院)にて720時間(およそ半年)のチャイルド・ライフの臨床実習を経験。在学中、病院や病児キャンプでのボランティア活動に参加。
2007年7月より現職。済生会横浜市東部病院は、全国でも珍しい小児肝臓消化器科を有しており肝臓消化器慢性疾患の子どもたちへの心理社会的サポートを中心に活動を行っている。また、がん診療連携拠点病院・救急病院であり多部署・多職種との連携により子育て世代のがん患者、救命救急患者の子どものサポートに力を入れている。
2007年7月より現職。済生会横浜市東部病院は、全国でも珍しい小児肝臓消化器科を有しており肝臓消化器慢性疾患の子どもたちへの心理社会的サポートを中心に活動を行っている。また、がん診療連携拠点病院・救急病院であり多部署・多職種との連携により子育て世代のがん患者、救命救急患者の子どものサポートに力を入れている。
2019年 チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会会長に就任。
チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会
人気記事
-
1
-
2
-
3
-
4
-
5