【坂口力元厚生労働大臣に聞く】医療分野に普及するネットサービスについて
小泉内閣で厚生労働省大臣として活躍された坂口力氏。実は現在の三重大学医学部出身の医師でもあるのです。その坂口先生に生活のあらゆるシーンで活躍するネットサービスが医療においてはどのような進歩をもたらせてくれるのか予測してもらいました。
医療分野に普及するネットサービスについて
医療という世界、医師をはじめとする医療従事者と患者の間には、密接で何者も入り込む余地のない関係だということになっておりましたし、これからもこの密接な関係は基本であり、継続するものと考えています。
しかし、ネットサービスが進んできました時代ですから、もう少しそれ(医療従事者と患者の関係)をスムーズに行えないかということが段々と言われるようになってきました。できることから始めるということです。例えば、病院内での待ち時間の効率化について、今までは受付をしてカルテを作ってもらって、提出したあと、順番が来るまで、そこ(待合室など)で待っていたわけですが最近ではネットサービスの一つが使われています。患者さんに専用機器を持って貰い、待ち時間の間少々はなれた場所にいても、順番が近づくと呼び出してくれることになります。ずっと同じ場所で待っていなくても、食事に行くこともできるし、混雑緩和にもなり便利なサービスとして効果を発揮しています。
ただしかし、ネットサービスはそれだけでしょうか?と。もう少しネットサービス利用で患者個人が検査結果のようなものを持つことができないか・・・これはカルテが誰のものかに通じる話です。患者個人が持つことに抵抗する病院が出てきます。そういった個人の検査結果を公にする様な形には、問題を指摘する人もいる。できるだけ、他に漏れないようにすべきだと言う事になるのですが、しかし患者さんの検査結果をスマートフォン等に送信することについて了承を得られた場合は、そこまで厳格にする必要があるか、議論になるところです。
本人の了解を得て、エックス線やCT, MRIなどの検査結果を患者さんのスマートフォンやPCに入れる。それを持って患者さんが違う病院に行ったときに、検査結果を見せることが出来ることになれば、それは本人のものとして良いのではないか、という意見もあります。一方で、それは特定の病院が所有している検査結果であり、それを例え患者さん本人であったとしても、あちこちで情報をオープンにして貰っては困るという人もあるわけです。検査には色々の条件がついていることもあるからです。そこのあたりは微妙です。
しかし、血液検査の結果をこのネットサービスでお送りし、検査を受けた人が持ち、何回かの結果をグラフにして、自分の健康状態を長期的に把握することになれば、健康管理に役立つことになります。それをどこかの医療機関を受診した時に「過去の検査結果はこういう経過を辿っています」と示すことは、次の診断にも参考になります。本人の了解ということが非常に大事になりますが、これから段々とネットサービスを利用した検査結果の提供が検討されて行くのではないかと、私は考えています。
そうした意味で、このネットサービスと医療とのかかわりは、これから段々大きくなっていくものと思います。例えば、「カルテそのものをオープンにして貰ってもよい」という人と病院がいたとすれば、A病院での検査結果を持って、B病院を受診することになった時、すでに受けた検査は不要で、追加で必要な検査だけを受けることが可能になり、新しい医療側と患者側の関係が生まれてくると考えます。おそらく、今後そういう方向に進んでいくと予測しています。
ネットを通じた予約サービスが普及していますがどう思いますか?
予約は非常に良いと思います。これは診療内容にかかわることではありませんし、その前段階ですから、スムーズに進むのではないでしょうか。一部の特殊な検査をやっているところでは、インターネット上で予約を受け付けています。それは何ら問題ないと思います。
問題は、検査を受けたあとの結果を(インターネットを通じて)流すか流さないかということです。これは診療側の立場もありますし、患者側の立場としてもあちこちに検査結果の内容がもれ、あらぬ噂がたっては具合が悪い。そのあたりをどう整理するかということです。・・・が、これは検査を受ける側の意思がかなり影響します。そうなりますと、認知症一歩手前の方は、どこまで本人の意思として尊重出来るか、という問題もありますし、小さい子供さんの場合はどう対応するのか、といった問題もあります。予約をするといったことや、検査結果で一定の許容範囲内でのネットサービス利用は、可能ではないかと思います。
編集部まとめ
みなさんが実感されるネットサービスの利便性。時間と空間を超越できる便利なネットサービスは医療でも大きな進歩と利便性の向上が期待されます。坂口先生はネットのセキュリティにも言及されつつも、患者さん自身の健康診断結果は患者さん自身がもっと自由に、便利に活用すべきではと背中を押してくださるようなお話が印象的でした。
取材日:2019年6月14日
プロフィール
坂口 力 先生
三重県立大学(現在の三重大学)医学部卒業後、日本赤十字センターに勤務。
1972年12月 第33回衆議院議員総選挙に出馬し、初当選(通算11回)
2001年の省庁再編で統合された厚生労働省の初代大臣に就任。
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