歯科医師が答える!増加傾向の歯肉炎はどんな病気?歯周病と何が違う?
歯肉炎がどんな病気か知っていますか?
歯肉とは、歯と歯茎の境界部分の肉(口腔粘膜)のことを指します。ここが細菌によって炎症したものが歯肉炎です。
歯磨きの際によく出血してしまう人や、口の中が粘ついている人は、もしかしたら既に歯肉炎になっている場合もあります。歯肉炎と歯周炎はどちらも歯周病の1つ。
間違えやすいですが、歯肉炎と歯周炎の2つは全くの別物です。歯肉炎についてきちんと知識をつけて、効果的な予防法を学びましょう。
歯肉炎は歯周病の初期状態
歯肉炎とは、先ほど述べたように、歯の周りの歯茎が炎症を起こしてしまう病気です。歯周病の初期状態と言えます。歯茎が腫れたり、歯磨きの刺激によって血が出たりといった症状がみられますが、痛みを感じることは少ないようです。
歯肉炎は、口の中に住む細菌によって作り出された「プラーク(歯垢)」が原因と言われています。プラークとは、ネバネバとした歯の付着物のことで、食べカスなどを栄養として細菌が繁殖したものです。
プラークの中には細菌がたくさん生息しており、この細菌が糖分を分解すると強い酸を作り出します。この酸によって歯が溶けてしまった状態が虫歯です。さらに、プラークが歯と歯茎の間に溜まると、細菌は歯茎にも悪さをしてしまい、炎症を起こしてしまいます。
プラークは虫歯や歯肉炎といった、口内トラブルを生み出す厄介な存在なのです。
歯肉炎が悪化すると歯周炎になる
痛みを感じることの少ない歯肉炎は、気が付かずに放置されるケースも多くなっています。そうすると症状が悪化し、歯と骨を結び付けている組織にまで細菌が侵入し、骨が溶けるといった深刻な状態になってしまいます。これが歯周炎と呼ばれるものです。
プラークをそのままにしておくと、歯石という段階へ進んでしまいます。歯石は歯磨きなどで簡単に除去できず、歯医者さんで処置してもらわないといけません。
そうなると歯肉炎・歯周炎の原因となる細菌も、ホームケアで簡単に洗い流すことはできなくなってしまいますね。
歯医者さんの定期検診を受けていないという人は、歯石が溜まって歯肉炎や歯周炎を起こしている可能性が高いようです。
歯肉炎を予防することが歯周病予防のはじめの一歩
歯肉炎を予防するには、毎日の歯磨きが最も重要です。プラークが歯に付着していない状態であれば、歯肉炎を心配する必要もありませんよね。
プラークは、歯の噛み合わせや歯と歯の間、歯茎のキワに残っている食べカスが元になります。これらが歯磨きなどで綺麗に落ちずに残っていると、これを栄養として細菌が繁殖してしまい、プラーク化します。
ですから、正しいブラッシングで日々の汚れをその日のうちに除去してあげることでプラーク化を防ぎ、歯肉炎の予防に繋げていきましょう。
歯周炎予防のための正しい歯磨き方法
しっかりと汚れを落とすためには、歯ブラシや歯磨き粉もふさわしいものを選ばなくてはいけません。
歯ブラシは先端が小さく、毛先が細いものを使いましょう。特に、歯周炎の場合には「歯周ポケット」と呼ばれる、歯と歯茎の間にあるミゾに溜まった汚れを綺麗にかき出してあげなくてはいけません。
歯磨き粉を使用する場合には、炎症を抑えてくれる効果のあるものや、歯肉炎・歯周病用のものを選ぶと良いでしょう。
歯周ポケットの汚れをしっかりと落とすには、スクラビング法と呼ばれる歯磨きの方法がおすすめです。スクラビング法のポイントは以下になります。
・歯と歯茎に歯ブラシを直角に当てる。
・小刻みに前後に磨く。
・1つの歯に対して、2~3ミリの振動で、20回程度磨くようにする。
・歯の裏側も同様にし、直角に当たらない場合には45度で磨く。
これらを全ての歯に対して、表側と裏側から行います。ブラシを横に動かすのではなく、縦に振動させるようにしながら細かく磨くようにしましょう。
既に歯肉炎になってしまっていたら……
既に歯肉炎の症状に当てはまってしまっている場合にも、このブラッシング法は効果的です。
プラークはネバネバしているため、歯の表面にくっついて唾液などで流れることはありませんが、きちんと歯磨きをすれば除去することができます。
軽度の歯肉炎であれば、ブラッシングによってセルフケアで治療可能でしょう。
ただし、素人が自己判断で歯肉炎だと決めつけてしまうのは危険です。見えない所に歯石がたまっていたり、歯肉炎がセルフケアでは治療出来ないほど進行していたりする可能性も十分にあります。
歯肉炎かなと思ったら、まずは歯医者さんで診てもらいましょう。プラークや歯石を除去し、歯磨きの指導をしてもらうことで、歯肉炎の再発予防にもなります。
炎症がひどい場合には抗生物質などの薬を処方してもらったり、フラップ手術という歯周ポケットの奥深くまで入り込んだプラークを取り除く手段をとったりすることもできます。症状が悪化して取り返しのつかない事態になる前に、検診を受けるようにしましょう。
歯肉炎になりやすい人
歯肉炎は女性に多く見られるのですが、これには、女性ホルモンが大きく関与しているからと言われています。
特に、思春期や妊娠時には女性ホルモンが増え、歯周ポケットから出る滲出液の中にも女性ホルモンが含まれるようになります。歯周病原細菌の中には、女性ホルモンを栄養として増殖するものがあるため、思春期や妊娠時に歯肉炎に悩む女性が増えるのだそうです。
特に、妊娠中の女性に重度の歯周病がある場合には、細菌の影響で早産や低体重児出産のリスクが高まるという報告もありますので、女性は特に、こまめなセルフケア・定期検診を心掛けましょう。
監修日:2019年11月20日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医