【医師が解説】「副作用が強く出た方が効くという報告も」免疫チェックポイント阻害薬とは?

 
医学とテクノロジーの進歩により、不治の病と言われた「がん治療」は変わりつつあります。2020年2月15日(土)、江戸川病院主催の講演会が開かれました。
 
本講演では、江戸川病院腫瘍血液内科医長の後藤 宏顕(ごとう ひろあき)医師が登壇し、「次世代がん治療」について解説します。本パートでは、免疫チェックポイント阻害薬と薬の併用について取り上げています。
 
後藤医師は、日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医、そして日本緩和医療学会認定 緩和医療専門医のふたつの専門医資格を持ち、がんに伴う身体と心のつらさに向き合っています。

新しいがん治療へ「オプジーボ」の開発

後藤 宏顕 医師:2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、京都大学特別教授の本庶 佑(ほんじょ たすく)先生。その当時、「オプジーボ」というお薬も同時に話題になりました。

本庶先生は、PD-1(ピーディーワン)というものを発見しました。その結果、オプジーボというお薬の開発に繋がったため、ノーベル賞をとられています。
 
当時、いわゆる抗がん剤ともまるっきり違う、夢の薬、免疫力も上げるので免疫チェックポイント阻害薬、略して免疫治療、第4の治療と言われていました。
 
実際には点滴治療なので、薬物化学療法、抗がん剤のひとつとも言えますが、免疫治療です。新しい時代が来た、いよいよ臨床で使う時代が来たと、我々の間でもワクワクしたのを覚えています。

素晴らしいお薬だが、非常に高価

ただ、全てが良い面だけではないです。これは、お金がとてもかかります。当時言われたのは、体重60kgの方が使うとしたら、年間3,600万円の医療費がかかります。
 
それを日本中のがん患者が使ったらどうなるか、これでは財政破綻して国が亡ぶ、そのように言われたこともありました。また、昔から免疫治療を独自にしているクリニックもあります。
 
そういう方々がノーベル賞の話題をきっかけに、「うちも免疫治療をやってます。」あるいはオプジーボを少し入れて「話題の治療うちでもしてます。」というような、便乗した治療をやりました。
 
ただ基本的には、素晴らしいお薬だと思います。
 

免疫チェックポイント阻害薬とは?

免疫チェックポイント阻害薬、これはどんなお薬か?がん細胞だけに作用する分子標的薬とも少しタイプが違います。

スクリーン画像の左側は、従来の抗がん剤です。抗がん剤は、全ての細胞に効いてしまう、でもがん細胞にも効くので、今でも主流のお薬で、これで助かる方もたくさんいらっしゃいます。
 
スクリーン画像の右側の分子標的薬は、がん細胞に特徴的な部分が出てきたところにピンポイントに当てていくので、よく効きます。
 
副作用もゼロではないがよく効き、しかも、どんどん開発が進んでいます。これと違い、免疫チェックポイント阻害薬についてお話します。

T細胞とがん細胞の関係

T細胞は、がん細胞を攻撃してやっつけてくれる免疫細胞です。本来は自然に、がん細胞ができても、T細胞のおかげでがん細胞をやっつけてくれています。

ただ、がん細胞もずる賢くて、PD-L1(ピーディーエルワン)PD-1(ピーディーワン)が手をつないでしまうと、T細胞ががん細胞に攻撃する指示が出せなくなってしまいます。
 
そこに注目したのが、「PD-1(ピーディーワン)抗体」というものです。手を繋いで、T細胞の攻撃指示をさせなくしているのをやめさせることです。
 
分かりやすく例えると、左側のお代官様が色々なことを取り締まっている大事な役割のはずが、右側のがん細胞からお金の賄賂(わいろ)を渡されると、それによって見逃して欲しいというような感じです。

本来なら、きちんとした役割を持っているのに、賄賂(わいろ)のせいで、正常な機能を果たさなくなってしまいます。世の中よくあることだと思います。これががんの世界でも、細胞レベルで起きています。
 
従来から行われている免疫治療は色々なクリニックでありますが、それがいくら高額でも保険で認められていないのは、免疫力だけをひたすら上げても効かないからです。
 
なぜかというと、がん細胞はとてもずる賢くて、効かないような握手をしてしまっている状態だからです。

T細胞の本来の力を発揮させるのためのオプジーボ

この握手をしてしまっている、賄賂(わいろ)のようなものを、ブロックするのがオプジーボです。
 
その結果、がん細胞を攻撃してやっつけてくれるT細胞が本来の力を発揮して、がん細胞を叩いていきます。これが、免疫チェックポイント阻害薬についての簡単な説明です。
 

免疫チェックポイント阻害薬の副作用は?

免疫チェックポイント阻害薬は、副作用もあります。ただ、従来の抗がん剤のような、脱毛や食事がのどを通らないほどの吐き気、そういったことはほとんどないです。

副作用が出た方がよく効くという報告も

あるとすれば、皮ふのかゆみ下痢などです。副作用が強く出た方が効くということも報告されています。新しいお薬なので徐々に色々なことが分かっています。
 
普通は、副作用は嫌だなと思われると思いますが、それは効く可能性を示しています。
 
担当医の先生に相談して、皮ふのかゆみがあればかゆみ止めを処方する、下痢なら下痢止めなどで、生活に困らないように対応策を考えてもらう必要はあります。

まれに、自分の身体を攻撃してしまう

また、まれですが、注意が必要な副作用もあります。
 
自分の本来の免疫力を発揮させる療法なので、ときに自分の身体を攻撃してしまう副作用があります。これは従来の抗がん剤にはなかった副作用です。
 
これを自己免疫疾患と言い、がんをやっつけるための治療なのに自分を攻撃してしまうことです。治療法はシンプルで、免疫を抑える治療、ステロイドを使用した治療を行います。
 
あとは、間質性肺炎(かんしつせいはいえん)というお薬による肺炎です。この治療特有のものではなく、抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬でもあります。
 
もし発生してしまったら、ステロイドの投与をすぐに行います。そうすると回復する確率があります。でも、ほとんど起きづらいです。
 
だいたいの方が、抗がん剤の治療をひと通り頑張ってやってきた後にされる場合が多いですので、「今までの治療と比べたら、こんなに楽な治療はない!」というふうに言う方もいらっしゃいます。

免疫チェックポイント阻害薬の保険適用は、徐々に拡大している

2014年7月、皮ふがんの悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)に対して、「ニボルマブ」(オプジーボ)が世界に先駆けて保険適用として承認されました。
 
それが今(2020年2月現在)では、胃がん、肺がん、腎がん、尿路上皮がん(膀胱がんや尿管がん)、頭頸部がん(咽頭がんや喉頭がん)、血液がんまでが保険に承認されています。
 
そして、もうじき承認予定なのは、食道がんです。あとは、肝細胞がん、婦人科がん、前立腺がんでも臨床試験のいい結果が出ていて、時間の問題で徐々に広がっていくと思います。
 

これからの時代は、薬の組み合わせと併用

時代の流れとしては、さらに先へ進んでいます。免疫チェックポイント阻害薬を、ふたつ組み合わせるということをしています。
 
これは、腎がんでは認められています。免疫チェックポイント阻害薬をふたつ組み合わせると強力になり、副作用も少し強めに出ます。
 
専門性が高い部分になりますので、腫瘍内科で相談していただいた方がいいのではないかと思います。

抗がん剤×免疫チェックポイント阻害薬

肺がんでは当たり前になっていますが、抗がん剤と併用する方法もあります。
 
正常な細胞にも影響をしてしまう可能性もありますが、がん細胞をやっつける抗がん剤と併用することで、抗がん剤だけよりもいい結果がでることが分かっています。

分子標的薬×免疫チェックポイント阻害薬

そして、分子標的薬との併用です。遺伝子解析検査によって、この分子標的薬がいいということが分かっています。
 
今はそれとの併用の開発が進んでいます。これはまだ臨床の現場では使われていないですが、国際学会で次々といい発表・報告されています。時間の問題で臨床の現場に降りてくると思います。
 

テクノロジーの進歩によって、飛躍的に医学は進んでいる

ということで、近未来は近付いているなと感じます。血液の中にもがん細胞は回っていて、テクノロジーの進歩によってそれが分かりつつあります。

血液検査で「○○がん」と診断できる時代

今後、血液検査で「○○がん」と診断できる時代が来るかも知れません。もしくは、手術など生検という形で組織を取って、あるいは血液の中に入っているがん細胞を直接、遺伝子解析をします。
 
今でも血液で遺伝子解析をできますが、これは保険で認められていなくて自費になります。組織がなくて、がんの遺伝子を調べたい場合は、独自にやっているクリニックもあります。
 
そういう遺伝子解析検査を行い、それに見合った治療を選択していくというようになっていくと思います。ただ、あまりにも複雑化しています。

組み合わせは膨大、AIを活かした治療選択へ

抗がん剤や分子標的薬もありますし、免疫チェックポイント阻害薬もあります。それぞれ何十種類もありますので、その組み合わせとなるとものすごい数になります。
 
これを人間の力でというよりは、AIを活用した治療選択の方がいいのではないかと思います。今後そういったものが出てくると思います。
 
こういった最適な治療法によって、がんが縮小していって、手術で取りましょうという流れになってくると考えられます。
 
いい治療はもう時期だな、予防や検診も大事だなと感じられたと思います。ただ、中には今すぐやりたいという方もいらっしゃると思います。

なかなか保険が効かないことが、治療のハードルではある

しかし、保険が効かないこともあり、なかなかハードルが高くて難しいことが現状です。
 
江戸川プラスクリニックというのがあります。江戸川病院から少し北へ行ったところにあり、明星先生と私で、二人体制でクリニックをしています。
 
こちらは、内科の保険外診療を専門に扱っているクリニックです。江戸川病院では、保険診療を提供しています。
 
例えば、遺伝子パネル検査で遺伝子変異が見つかったけど、臨床試験でどこも治療をやっていない、でも治療をしたい、お金がかかるのは分かっているけれど、それでも治療したいという方のためのクリニックです。
 
そこでは、免疫チェックポイント阻害薬、オプジーボやその他のお薬が複数あります。そういったお薬を併用することもすでにしています。
 
あとは、がんセンター中央病院、東京大学、慶応大学などの大きな病院で遺伝子パネル検査をして、出てきた検査結果をもとに、こういった治療をしてほしいということで、お薬を処方することもあります。
 
しかしながら、これらは全て自費診療になります。保険と自費の混合で治療すること(混合診療)はできませんので、すでに江戸川病院で保険診療の治療を受けている方は、受診することができません。
 
もし、江戸川病院にかかっていなくて、色々情報を知りたいという方はご相談を受付けています。

将来、どこの病院でも治療を受けられる時代は来る

ただ、今後必ずと言っていいほど、遺伝子パネル検査も前倒しになって行くでしょうし、開発されるお薬もどんどん増えていきます。
 
そして、それに見合った治療費の工面、こういったものは世の中のニーズとして進んでいきます。江戸川プラスクリニックでしている医療は、次期に必要なくなって行くと思います。
 
これは、明星先生と私たちの願いでもあります。今は、治療法があるにも関わらずできないという方の間を埋めるためのクリニックです。
 
近い将来、色々な制度が進んで、それぞれの病院で当たり前のようにできれば、必然的にこのクリニックは必要なくなり、今かかっている病院で治療を受けられるようになる時代が来ると思います。
 

医科歯科ドットコム編集部コメント

この日、小岩アーバンプラザの会場には、300人近い聴講者で大盛況でした。新しい医療情報への関心の高さが伺えます。
 
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫機能を上手に利用した治療で、今後保険適用での治療が期待できそうです。
 
このお薬を複数組み合わせること、抗がん剤や分子標的薬と併用することで、いい結果が望める可能性もあります。
 
テクノロジーの進歩によって、AIを活用した治療選択をする時代が来るかもしれませんね。
 

<講演概要>
テーマ:「次世代がん治療について」
開催日:2020年2月15日(土)
主催:江戸川病院地域連携室
後援:江戸川区ほか
 
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講師プロフィール

江戸川病院
腫瘍血液内科医長
後藤 宏顕(ごとう ひろあき)医師
 
<資格>
日本内科学会認定内科医
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医・指導医
日本緩和医療学会 緩和医療専門医
PEACE PROJECT 緩和ケア講習会・指導者講習会修了
院内緩和ケアチームリーダー
 
<略歴>
2004/3 千葉大学医学部卒業
2004/4 船橋市立医療センター 初期臨床研修医
2006/4 がん研究会有明病院 消化器外科レジデント
2008/4 がん研究会有明病院 化学療法科レジデント
(2008/1-2008/7 がん研究会有明病院 緩和ケア科研修)
2010/4 江戸川病院 腫瘍血液内科
(2011/1-2011/3 聖路加国際病院 緩和ケア科研修)
 
<専門分野>
がん薬物療法(抗がん剤治療)、がん緩和ケア(苦痛緩和)