【医師が解説】「検診における被ばくのリスク」時代遅れの検診をしていませんか?

 
「がんを治す時代から予防する時代へ」2人に1人ががんになると言われていますが、がんを予防できればその数字は変わっていくはずです。2020年2月15日(土)、江戸川病院主催の講演会が開かれました。
 
本講演では、江戸川病院腫瘍血液内科副部長の明星 智洋(みょうじょう ともひろ)医師が登壇し、「正しいがん検診の受け方」について解説します。本パートでは、検査別の被ばく量について取り上げています。
 
明星医師は、がん診療の最前線で現役の医師として活躍しており、日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医、そして日本血液学会認定 血液専門医でもあります。

 

胃のバリウム検査より、胃カメラ検査がおすすめ

明星 智洋 医師:検診の中に胃のバリウム検査というものがあります。皆様の中にも、胃のバリウム検査を受けたことがある方もいらっしゃると思いますが、実はバリウム検査は、がんを発見しづらいです。
 
がんを見落としてしまう可能性があるわけです。バリウム検査の結果で怪しいとなったら、結局胃カメラ検査をやることになると思います。ならば、最初から胃カメラ検査をした方が、圧倒的に効率がいいです。
 

 
スクリーンに映し出されている画像は、私の胃の中の画像です。この講演会をやる前に自分も受けておかなければと思い、人生で初めて胃カメラ検査をしました。
 
こうやって胃カメラを飲むと、直接、胃の粘膜が分かります。ここ怪しいなと思ったら、怪しいところを直接生検して、がんかどうかを調べることができます。
 
ヘリコバクターピロリ菌の検査もバリウム検査ではレントゲンですから、ピロリ菌がいるかどうかは分かりません。胃カメラ検査であれば、組織を取ってくることができますから、顕微鏡で見てピロリ菌がいるかどうか分かるわけです。
 
従って、胃のバリウム検査と胃カメラ検査、どちらをやりますか?と聞かれたら、そこは迷わず胃カメラ検査をやられた方がいいです。
 
つまり、胃のバリウム検査はやることの意味があまりない、もっと言うと、放射線を浴びますから、被ばくのリスクも高くなります。バリウム検査はもう時代遅れ、胃カメラ検査の方がいいかなと思います。

 

胃のバリウム検査の被ばく量は、0.6~100mSvとかなり差がある

検査別の被ばく量についてですが、例えば胃のバリウム検査は、上手な技師がやれば短時間で終わると思いますが、患者様がゲップなどして時間が掛かれば、その分被ばくの量が増えます。
 
胃のバリウム検査の被ばく量は、0.6~100mSv(ミリシーベルト)とかなり差があります。一方、内臓脂肪を調べるようなCT検査では、多くても3~10mSv(ミリシーベルト)くらいです。
 
このように、胃や食道のバリウム検査をあまりおすすめできないという理由には、被ばく量の多さもあります。

 

何もしていなくても、日常生活で被ばくしている

被ばくは、やはり皆様気になりますよね。mSv(ミリシーベルト)とは、どのような値なのか、分かりやすくご説明します。スクリーン資料は、環境省HPが出しているものです。
 

 
資料:被ばく線量の比較(環境省)
 
例えば、胸のレントゲンを1枚撮ったら0.1mSv(ミリシーベルト)です。それはあまり害がないでしょう。東京とニューヨークを飛行機で往復したら、どれくらい紫外線から被ばくを受けるかというと、これも0.1mSv(ミリシーベルト)です。
 
ですから、我々が生活しているだけで、何もしていなくても被ばくはどうしてもしてしまうのです。でもそれは、ほとんど健康被害がないレベルなので心配はありません。
 
つまり、胸のレントゲンを複数枚撮っても、そんなに害はありません。ただ、全身のCT検査や胃のバリウム検査などを、むやみやたらに1年に何回も撮ったりすると、健康被害が出てくるわけです。
 
自然の被ばく量とは、宇宙や地面からもあります。そして、食べ物からも被ばくします。ということで、一人あたり年間の被ばく量は2.1mSv(ミリシーベルト)、普通に生活をしていても被ばくしてしまいます。
 
従って裏を返せば、その程度であれば検査を受けても害がないということです。

 

腹部エコー(超音波)検査は、被ばくしないが正確性に欠く

一切被ばくをしない検査というものもあります。先ほどの胃カメラ検査も被ばくをしません。スクリーン資料で紹介する、こちらの腹部エコー(超音波)検査も放射線を使っていませんので、一切被ばくしません。
 
腹部エコー(超音波)検査は、安全という面では一番です。しかし、検査結果は白と黒だけで、どこに何があるか分からないですよね。見る人が見れば分かりますが。
 
例えば、メタボリック症候群の方でお腹の脂肪が多い方ですと、超音波がうまく透過しなくて、モヤっとしか映らないです。また、便秘で腸にガスや便がたくさん溜まっている方は、なかなか超音波でお腹の中を見ることができません。
 
さらに技師によって、ある人はテクニックがあってきれいに映るが、下手な人がやるときれいに映らないということもあると思います。なので、見逃してしまうという可能性があります。
 
腹部エコー(超音波)検査は、被ばくはないが正確性に欠くという欠点があります。
 

 

胸部レントゲン検査では、奥の重なっているところを確認できない

胸部レントゲン検査も皆様ほとんどの方が、何回か受けたことがあるかと思います。スクリーン画像は、私の胸部レントゲン検査の画像です。
 
真ん中に心臓があって、左右に肺がありますが、心臓の裏側の肺に何かあっても、重なっているので何も分からないです。横隔膜の裏側にがんがあっても、見落としてしまいます。
 
胸部レントゲン検査も被ばく量が少なくて簡単にできる検査のひとつですが、見落としてしまう可能性があります。
 

 

1~5mm間隔で画像を見られる胸部CT検査がおすすめ

私のおすすめは、輪切りで検査できる胸部CT検査がいいと思います。1mm、5mmのスライスで検査画像を見ることができますので、心臓の裏側にあるがんでも見逃すことがありません。
 
1~2mmの小さながんでも、見つけることができます。胸部CT検査のデメリットは、被ばく量です。被ばくに関しては、胸部CT検査に関して低被ばくCTという検査機器があります。
 
被ばく量をぐっと抑えて、胸部レントゲン検査と同じくらいの放射線量で撮ることができるものです。江戸川病院にもあります。
 
そういう検査機器を利用していただければ、安全かつ見落としなく検査を行えます。胸部レントゲン検査をするくらいなら、胸部低被ばくCT検査を利用した方がいいです。

 

胸部のついでに腹部もCT検査すれば一石二鳥

さらに、胸部のついでに腹部もCT検査してもらえれば、先ほどの腹部エコー(超音波)検査もやる必要がなくなります。腹部エコー(超音波)検査では分からなかった部分も、CT検査ならきれいに映ります。
 
肝臓、胆のう、膵臓(すいぞう)、脾臓(ひぞう)など、奥にあって見づらい臓器も全て見ることができます。全身CT検査を年に1回くらい撮ってもらえば、効率的に検査ができてしまうわけです。
 
胸部レントゲン検査も、腹部エコー(超音波)検査も要らなくなり、正確度も上がります。
 

 

大腸がんこそ、まさに予防できる臓器

しかし、CT検査では分からない臓器もあります。それは、管(くだ)と言われる食道、胃、大腸など、そういうところはCTやレントゲンでは分かりません。
 
管(くだ)状になっているので、筒の中まではCTで見ることができません。大腸がんは、女性では死亡者数1位です。大腸がんは年々増えています。
 
大腸がんはどの年齢でもなることがあり、若くてもなることがあります。「検便で血が混じっていたら、大腸がんかも知れません。」という、大腸がんの便潜血検査というのを江戸川区でもされていると思います。
 
この便潜血検査に引っ掛かったら大腸カメラをやるのですが、大腸カメラでポリープが見つかって、ポリープの段階で摘んでしまえば、がんになることはありません。
 
大腸がんとは、いきなりがんとして出てくるわけではなく、まずポリープとして現れ、それを放置してしまうことで徐々に悪性化していくものです。
 
つまり、極論を言えば毎年大腸カメラをして、ポリープの段階で芽を摘んでしまえば、大腸がんで亡くなる確率は極めて低いと言えます。大腸がんこそ、予防できるがんです。

 

医科歯科ドットコム編集部コメント

この日、小岩アーバンプラザの会場には、300人近い聴講者で大盛況でした。誰もが、できれば健康で長生きしたいと思うようで、健康情報への関心の高さが伺えます。
 
検診で気になるのがやはり被ばくですよね。東日本大震災以降、被ばく量を気にされている方は多いと思います。低被ばくCTというものを利用すれば、安心して検診が受けられそうですね。
 

<講演概要>
テーマ:「正しいがん検診の受け方」
開催日:2020年2月15日(土)
主催:江戸川病院地域連携室
後援:江戸川区ほか
 
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講師プロフィール

江戸川病院
腫瘍血液内科副部長
明星 智洋(みょうじょう ともひろ)医師
 
<資格>
日本内科学会認定内科認定医
日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、指導医
日本血液学会認定血液専門医、指導医
日本化学療法学会認定抗菌化学療法認定医、指導医
日本癌治療学会認定がん治療認定医
インフェクションコントロールドクター(ICD)
Total nutritional therapy修了
 
<略歴>
2001/3 熊本大学医学部卒業
2001/4 岡山大学医学部附属病院腎・免疫・内分泌・代謝内科
2001/10 国家公務員共済組合連合会 呉共済病院 内科
2003/4 国家公務員共済組合連合会 呉共済病院 血液内科医員
2004/4 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 血液科
2005/4 癌研究会有明病院 化学療法科・血液腫瘍科
2009/4 江戸川病院 腫瘍血液内科
2009/10 同医長
2012/4 同副部長
2016/1 東京がん免疫治療センター長(兼任)
2016/10 Hyper medical creator就任
2018/2 プレシジョンメディスンセンター長(兼任)
 
<専門分野>
がん薬物療法(抗がん剤治療)血液疾患(良性・悪性含む)
感染症管理、免疫療法日々、市中病院にてがん診療の最前線で抗がん剤中心の治療をおこなっている。
Hyper medical creatorとして、上場企業やベンチャー企業と、医療現場をつなげることをライフワークとしており、ユーグレナ、資生堂などとも連携している。
オンライン診療や栄養、人工知能、職場の環境改善など幅広い領域で、橋渡しをおこなっている。
その傍ら、趣味として梅酒が健康にどう影響するのか、どの料理と合うのかなど探究し、一般社団法人梅酒研究会設立、全国での梅酒まつりや品評会を主催している。
 
<出演・監修>
朝日放送 たけしの『みんなの家庭の医学』出演
映画『ゆめはるか』医療監修、出演
映画『サクラ花』医療監修
土曜ワイド劇場『切り裂きジャックの告白』医療監修
映画『うまれる ずっといっしょ。』アドバイザリーボード
その他、新聞などのメディアへの掲載多数
著書『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)
 
<その他>
株式会社オリィ研究所 顧問
株式会社マイロプス 顧問
一般社団法人梅酒研究会 代表理事
MRT株式会社 取締役