元プロ野球選手の森本稀哲(もりもとひちょり)さんと現役医師でありU12の少年野球・若武者NIPPONに帯同する織田聡先生の対談の第三弾。
テーマは「ケガを未然に防ぐにはどうしたらよいか」についてです。高校球児の投げすぎ問題など話題にもなりますが、何を心がけ、どんな環境を作ればいいのでしょうか。スポーツをしない方にも読んでいただきたい対談です。
前回までの対談記事はこちら
第一弾:森本稀哲元プロ野球選手と現役医師対談「怪我をきっかけにより高いパフォーマンスを生む方法」
第二弾:森本稀哲元プロ野球選手と現役医師対談「ケガを最小限に抑えるにはどうすればよいか」
ケガを未然に防ぐためにはどうしたらよいか?
ケガを未然に防ぐためには、自分の身体をうまく扱うことが一番だと思います。たとえば走る時、ひざがちゃんと上がってないまま走ったら、身体の他の部分が頑張らないといけないので、身体をうまく使えるフォームにした方が負担のかからない走り方になります。歩いているときも、変な歩き方で一日何万歩と歩いていたら身体のどこかに負担が出てきます。でもスムーズに身体を使えるとそのケガのリスクは減ってきます。
僕はスポーツでも同じことが言えると思います。人間の身体は一人ひとりの特徴があるので、これでなければ、という決まった型はありませんが、野球でいうと本当にその投げ方が自分の身体をうまく使えているのか、ということです。
たとえば僕の場合は、腕を上げて投げると(手を上げ肘を頭の位置まで上げる)肩にとても負担がかかるので、手を身体から離し肘と肩が水平なフォームで投げるとスムーズに投げられるので、僕のゼロポジションは後者です。
ですが、肩に負担の少ないフォームで投げていると、腕を上げて投げろと言われて、そのフォームで投げると肩がすぐに痛くなってしまいます。
そういった自分の身体に合ったフォームを選手一人ひとりが理解し、またちゃんと理にかなった投げ方できているかどうかが、ケガに直結してくるかと思うので、それを見れる監督、コーチ、専門の方が重要になるかと思います。
たとえば打つにしても、飛ばしたい時にトレーニングしたら飛ぶというわけではありません。昔は米俵を3つも4つも背負って歩くおばあちゃんがいましたが、人の身体ってそれくらいの可能性を秘めていて、上手に使えばそうやって使えるような身体になっています。
無駄なトレーニングはただの重荷になってしまうので、うまく身体を使うこと、まずはもっている能力、それがすべて発揮できるかどうかがポイントだと思います。
無駄なトレーニングはきっとあると思います。よく腰痛に対して、「どういう運動や姿勢をした方がいいですか」と聞かれますが、人によって背景が違うので、対処法も異なります。テーラーメイドのように個人個人によってトレーニングの仕方やどこを鍛えないといけない、というのは変わってきます。
森本さんがおっしゃるように、一番大事なのは、自分がどういったタイプなのか、何を鍛えないといけないのか、というのをまずはアセスメントできることが重要です。そういうアセスメントができる方がそばにいるか、というのは大きいです。
そうですよね。時代も変わってきていて、小学校や中学校でもアセスメントができる方がいた方がいい時代になってきている気がします。
そうですね。医学的な側面もスポーツ科学というのが発達してきて、科学的根拠というのも蓄積されてきています。なので、昔のようにうさぎ跳びや水を飲むなというトレーニングは今では古いものとなっています。ですが、おそらくきっと、今現在良しとされている最先端のトレーニング方法でも、もしかすると20年後30年後にはこれは間違っていたというようなことが出てくるかも知れません。
ですので、監督さんや親御さんなど、自分が子どもの時や10年前、15年前これが正しいと言われていたということだけで子どもにすすめるのではなく、常に新しい情報を正確に取りにいくということを座学としてやらないといけない時代なんじゃないかなと思います。
小学校の監督やコーチも、最先端のスポーツ医学とまでは言いませんが、運動学は最低限の知識として学ばないと子どもたちが潰れていってしまう気がします。どうしてこういう動きは肩が上がっていくのかとか、ここからどうやったら肘がしなって逃がしていけるのかって、それは脚から来て、とか話ができないと。今はもう走っておけばいい、という時代ではないと思います。
試合前のアップとかでもただアップしておけと指示すると、形式的に子どもたちはやってしまします。そうすると果たしてその運動、その姿勢、アップは何の目的でやっているのかを考えなくなり、その必要性もわからないまま続けてしまいます。
織田先生!それほんともっと大きい声で言ってください!全国にお願いします。
そこを言わないとケガの減少につながったり、パフォーマンスは上がっていかないと思います。
まだまだそういう環境のところは多いでしょうね。
今回僕が帯同したU12の少年野球・若武者NIPPONのゼネラルマネージャーが、「野球に昭和の魂とサイエンスを取り入れよう」ととてもいいことを言っていました。今は昭和の良かった魂、精神的な強さを鍛えるようなものが失われつつあるので、そこを取り戻して、そこに昔はなかったサイエンスをちゃんと入れて、無駄なことはせずに、科学に基づいたパフォーマンスの上げ方を子どもたちに教えていかないといけないと言っていて、とても共感して、全面的に協力しようと思った次第です。
昭和の魂をちゃんと受け継ぐというのがまたいいですね!昔のアスリートも技術は追いついていない時代の中でも、今のサイエンス的なものをどこかで感じていた人も多いんでしょうね。
編集部まとめ
スポーツをする子どもの為、選手の為、熱く語っていただいた織田先生、森本さん、ありがとうございました。スポーツに限らず日常生活でも自分の身体をちゃんと効率的に使えているか意識していきたいと思います。
取材日:2019年11月1日
プロフィール
医師 薬剤師 医学博士 僧侶医療法人社団聡叡会あすかクリニック院長
一般社団法人健康情報連携機構代表理事
LITERRAS MEDICA株式会社 CEO 代表取締役社長
株式会社アクセルレーター 取締役日本型統合医療を提唱し、西洋医学と補完医療の有機的連携構築が専門。東洋医学的哲学を基盤に、ICTやAIなどを活用した先進的医療にも精通する。現役医師として臨床業務の傍ら、少年野球からe-Sportsまで多くのスポーツ振興に関わり、ヘルスケアデバイスの開発や医療用アイソトープ国産化など種々の事業にも参画している。また、僧籍(臨済宗妙心寺派)をもち、早くから禅の医療や介護への利用を模索している。寺院を活用した地域コミュニティ再生にも期待されている。
プロフィール
CKPLAT所属
元プロ野球選手、講演家、野球解説者高校野球の名門・帝京高校の主将として甲子園に出場。
1999年ドラフト4位で日本ハムファイターズ
(現北海道日本ハムファイターズ)に入団。
2006年には1番レフトとして活躍、チームを日本一へと導く。
その後、2011年横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。
2014年、埼玉西武ライオンズへテスト入団。
2015年9月、17年間にわたるプロ野球人生を終え、現役を引退。通算成績は、1272試合、3497打数904安打、33本塁打、521得点、267打点、106盗塁、打率.259。
2006年、2007年はパ・リーグ最多得点。
2006年から2008年まで3年連続ゴールデングラブ賞を受賞し、2007年ベストナインに選ばれる。現在は、経営コンサルティングを手掛ける『CKPLAT』に所属。
野球解説やタレントとしてテレビ・ラジオ出演のほか、講演活動も行っている。著書『気にしない。どんな逆境にも負けない心を強くする習慣』(ダイヤモンド社)
森本稀哲オフィシャルサイト