近年、「口腔内の健康は全身の健康」という考え方が世間に広く浸透し、口腔内への関心が高まりつつあります。
特に注目されているのは、生活習慣病をはじめとした全身疾患と歯周病との関わりです。
「歯周病って、お年寄りがかかるものでしょう?」
「歯磨きはきちんとしているし、まだ若いから大丈夫!」
20代や30代、もしかしたら40代でも、「歯周病はお年寄りの病気」だと思っている人が少なくありません。
しかし、実は歯周病患者数のピークは50代と意外に若く、厚生労働省の平成23年歯科疾患実態調査によれば35歳を過ぎると8割以上の方が歯周病に罹患しているとされています。
そして、この歯周病が、口腔内だけでなく全身に影響をもたらしていることが最新の研究でわかってきました。
今や歯周病治療の目的は、「歯と歯茎の健康を取り戻すこと」から「全身を健康に保つこと」へとシフトしつつあります。
歯周病と全身との深い関連性を探り、甘く見てはいけない「歯周病の影響」について考えてみたいと思います。
実はかなり怖い!歯周病って?
歯周病はサイレントディジーズ(Silent Disease:静かなる病気)と呼ばれ、悪化するまでほとんど自覚症状がありません。
気付かないうちに歯肉の炎症が起き、最終的には歯のまわりの組織が破壊されて歯が抜け落ちてしまうのです。
成人が歯を失う原因として最も多いのが歯周病であると聞けば、口腔内に与える影響の大きさがわかるのではないでしょうか。
以下の項目に当てはまるものが多いほど、歯周病のリスクが高いとされています。
・歯茎が赤く腫れている
・朝起きたとき、口の中がネバネバする
・歯磨きをすると歯茎から血が出る
・歯と歯の間に食べ物が挟まりやすい
・口臭が気になる
・歯茎を押さえると血や膿が出る
・喫煙習慣がある
・固いものが噛みにくい
ひとつでも心当たりがあれば、なるべく早く歯科医院で診てもらうことをお勧めします。
歯周病患者は糖尿病になりやすい!?
これまでも、糖尿病の患者はさまざまな口腔疾患、中でも歯周病に罹患しやすいとされてきました。
加えて、最近では、歯周病患者は糖尿病になりやすいという逆の関係も指摘されています。
歯周病の炎症が生むサイトカインという物質の中に、血糖値を下げるインスリンの働きを阻害するものが含まれており、血糖値コントロールがしにくくなることがわかってきたからです。
歯周病の治療によって炎症が改善されると、血糖値も改善される可能性があると言われています。
糖尿病の疑いがある方は、同時に歯周病の可能性も考えて歯科医院で検査を受けること。
また、歯周病を指摘された場合は食生活を見直し、糖尿病のリスクを減らしていくこと。
糖尿病と歯周病には、双方向からのアプローチが必要です。
心臓疾患や肺炎を引き起こすことも……
狭心症や心筋梗塞といった心疾患も、糖尿病との関わりが深いとされています。歯周病に罹患した歯茎で産生された炎症性物質は、血液の流れに乗って全身に運ばれていきます。そして、心臓に血液を送る血管を狭めたり、塞いだりして心疾患を引き起こしてしまうのです。同じように、血管に歯周病原性細菌が入り込むと、肺炎を起こしやすくなることもわかっています。また、妊娠中の女性で歯周病に罹患している人は、口腔内が健康な人に比べて低体重児出産や早産の確率が高いという報告もあります。歯周病による炎症性物質が、へその緒を通じて胎児にも運ばれてしまう危険性があるのです。
まとめ
歯周病は、適切なケアによって未然に防ぐことができる病気です。
何より大切なのは、歯面に付着したプラーク(歯垢)をしっかり取り除くこと。
自分ではしっかり磨けているつもりでも磨き残しはあるものですから、定期的にかかりつけの歯科医院で検診を受けましょう。
痛みが出てからではなく、予防意識を持って歯科医院に通うことが、全身の健康維持につながります。
医科歯科ドットコム編集部コメント
心筋梗塞や肺炎って、死につながるような重病ですよね…。それに早産になる危険さえあるとなると、いよいよ歯周病は軽視できないものですね。
ひとつでも当てはまった方は、今すぐ医科歯科.comで歯医者さんを探してください!きっとあなたの力になってくれるはずです!
監修日:2019年11月18日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医