自分の「もしも」に備え乳歯や親しらずを活かす歯髄細胞の保存方法とは?

抜けた上の乳歯を床下に、下の乳歯を屋根の上に投げ、「良い歯が生えてきますように」と祈った記憶がある人は多いはずです。
新しい歯が、投げた方向に向かって真っすぐ生えて来てくれるようにという願いが込められたおまじないで、同じような習慣は日本のみならず様々な国で見られるそうです。
しかし今、抜いた歯のあとに残る「歯髄細胞」が、病気や事故で失われた臓器や組織を元の形や機能に再生できる可能性があるとして注目され、抜けた歯は「投げるもの」から「保存しておくもの」へと変わりつつあります。

 

抜いた歯や親知らずの中にある「歯髄細胞」ってどんなもの?

「歯髄細胞」は歯の神経のことで、組織や臓器を修復・再生する能力を持つ細胞のタネ「幹細胞」の1つです。
これまで、幹細胞は臍帯血や骨髄から採取するのが一般的でしたが、乳歯や親知らずであれば採取される側の身体への負担が少なく、かつ採取する機会が多いということで注目度が高まっています。
しかも、硬い歯に守られているため損傷が少なく、新鮮な状態を保つことができる上、増殖能力が高く短期間でたくさんの幹細胞を得ることができるというメリットもあります。
更に、山中伸弥教授のノーベル生理学賞・医学賞受賞によって一躍有名になった「IPS細胞」も、当初採取されていた皮膚よりも歯髄細胞からの方がより効率よく採取できることが分かってきました。
歯髄細胞から作られたIPS細胞は日本人の移植に適した型を20%の割合で持つとも言われており、大きな期待が寄せられています。
 

<参考>日本歯科医師会 「再生医療の今とこれから」

 

歯髄細胞によって、どんなことが可能になるの?

やけどを負った皮膚や損傷した脊髄の再生の他、アルツハイマー病、脳梗塞などの神経疾患から糖尿病、肝疾患、腎疾患などの臓器疾患まで、あらゆる病気に対する実用研究が進んでいます。
歯の幹細胞を歯科治療に応用する研究も進んでおり、歯槽骨が足りないためにインプラント治療ができなかった人にも希望の光が見え始めています。
いずれは、「インプラントや入れ歯ではなく“自分の歯”を取り戻したい」という望みも可能になるかもしれません。
再生医療の将来を見据えて、歯髄細胞を保管しておこうという「歯髄細胞バンク」も、世界の先進国を中心に増加しつつあります。
日本でも、株式会社セルテクノロジー(旧:再生医療推進機構、ACTE)が歯髄細胞を長期間冷凍保存しておく歯髄細胞バンクを運営しており、これまでに1000人を超える人が細胞を預けているそうです。
 

<参考>歯髄細胞バンク 「よくあるご質問(Q&A)」

 

歯髄細胞の保存方法って?

歯髄細胞の中に良質な幹細胞があることは前述しましたが、その数は決して多くはありません。
そのため、採取した細胞は一定量まで培養し、利用に備えて長期間冷凍保存しておく必要があります。
 
①歯髄細胞バンクに資料請求をし、事前申し込みを済ませます。初期登録料は10年間保管で30万円、以降10年間ごとに登録更新料12万円がかかります。
②提携している歯科クリニックで抜歯。抜いた歯は、歯科医師が専用の容器に入れ、保管施設へ送ります。
③歯から歯髄細胞を取り出し、一定量まで培養して増やします。
 
ちなみに、採取できる年齢に制限はなく、若ければ若いほど良いとされています。
なぜなら、歯髄細胞中の幹細胞は加齢と共に減っていくとされているからです。
大人になるにつれて怪我が治りにくくなるのはこのためです。虫歯が進行していると保管できない場合もあるため、思い立ったらできるだけ早く行動することをお勧めします。
「再生医療」は、もはや遠い夢の話ではありません。
これからは、万一の怪我や病気に備えて歯髄細胞を保管しておくという選択が当たり前の世の中になっていくでしょう。
自分や家族の「もしも」に備えて、未来の安心に投資して見るのはいかがでしょうか。

 

医科歯科ドットコム編集部コメント

保存して再生医療に生かせるなんて、医療技術の進歩はすごいですね!
歯のことでお悩みがある方は医科歯科.comを通して先生にご相談くださいね。

 
監修日:2020年1月22日
 

監修医 プロフィール

医療法人社団 輝 藤本歯科長洲医院
藤本 俊輝
歯学博士
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医