歯科医院では、虫歯や歯周病の他に「歯の外傷」による患者さんも多く訪れます。
「転んで歯を強く打ってしまった」
「ボールが歯に当たった」
「硬いものを食べたら歯が割れてしまった」など理由は様々ですが、同じトラブルでもその後の対応によっては歯が元通りになることもあれば、そのまま歯を失ってしまうケースもあります。
いざというときに慌てないためにも、歯の症状ごとの対処法について解説したいと思います。
歯が折れてしまった!
歯が折れてしまった場合ですが、まずは「折れた歯を捨てない」ようにしてください。
なぜなら再接着をするときに使用するためです。
現在は技術の発達によって、天然歯に極めて近い人工素材が開発されていますが、それでも自分の歯には敵いません。
処置が早ければどこが折れたのか分からないほどきれいに接着することができる場合もあります。
折れた歯を回収したら「乾燥させないこと」がポイントとなります。
牛乳または水に漬けた状態で歯を保存したら、なるべく「30分以内」に歯科医院で治療を受けるようにしてください。
また歯が折れてしまうほどの衝撃を受けた場合、見えない根っこの部分にダメージがあることもあります。
接着した後に歯の色が変わってしまったり、歯を支えている骨の部分が吸収されてなくなってしまったりすることもあるので、しばらくは定期的にレントゲンを撮って経過観察をしてください。
歯がグラグラする!
歯がグラグラするときは、歯が元の位置にある「亜脱臼」と、歯の位置が大きく変わっている「脱臼」という2タイプに分類できます。
いずれの状態も歯にはなるべく触らず、そのままの状態で歯科医院を受診してください。
まず、歯が元の位置にある「亜脱臼」の場合ですが、少しグラグラするぐらいならば安静にしていれば1週間程度で自然に治ります。
ただし、噛んだときに痛みを感じる場合や、動きが大きい場合は、ワイヤーやボンド剤で2~3週間ほど固定する必要があります。
次に歯の位置が大きく変わっている「脱臼」の場合、歯科医院では歯を元の位置に戻してから(整復)、ワイヤーやボンド剤によって3~4週間以上固定する治療を行います。
注意したいのが「神経の状態」です。歯の付け根の先端には神経が通っているのですが、歯が大きく動いてしまったときは、この組織が切断されていることも多いのです。
死んだ神経を放置しておくと細菌感染を起こし痛みの原因となることがあるので、場合によっては神経を取り除く治療を行うこともあります。
歯が抜けてしまった!
衝撃によって歯が完全に抜けてしまうことがあります。
歯の柔らかい子供に多いのですが、大人でも稀にある症状です。
尚、歯が歯槽骨から抜けることを「脱臼」と呼び、歯を元通りの位置に戻して固定(再植)する治療を行います。
ただし、永久歯ではない子供の乳歯の場合は経過を見て永久歯が問題無く生えてきそうであれば治療しない場合もあります。
歯が抜けてしまったときに重要なのは、「歯根膜を傷つけない」ということです。
歯根膜とは歯の根っこの部分にある膜のことで、歯と骨を繋ぎ合わせるという非常に重要な役割を担っています。
この歯根膜の生存こそ、歯が元通りになるかどうかのカギを握っているといっても過言ではありません。
非常に柔らかくデリケートな組織なので、絶対に手で触らないようにしてください。
歯を拾い上げるときも歯の頭部分を持つように心掛けましょう。
歯の保存方法についてですが、身近なものでは「牛乳に漬ける」のが良いと言われています。
水道水では歯根膜が死んでしまうことがあるので要注意です。
抜け落ちた歯が汚れてしまっているときは、多少の汚れならばそのまま牛乳に漬けてOKです。
砂などが付いていると洗いたくなる気持ちも分かりますが、しっかり洗ってしまうと繊維が死んでしまうこともあるので、弱い水流でさっと流す程度に止めてください。
応急処置の有無で成功率が変わる
体のほとんどの部位は怪我をしても治りますが、歯の場合は別で、基本的に元通りになることはありません。
歯を失ってしまったら噛む機能が失われるのはもちろん、顔のバランスが崩れたり、発音が困難になったり、歯のことを気にして人前で口を開けられなくなったり、生活に関係する様々な問題が発生します。
歯を怪我してしまった場合、その後にどんな対応をしたかによって成功率は変わっていきます。
自分の歯を残すためにも、応急処置の方法を覚えておくようにしましょう。
医科歯科ドットコム編集部コメント
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監修日:2020年1月21日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医