歯医者さんが大好き!という人はあまりいません。
「できることなら行きたくない」というのが多くの人の本音でしょう。
それでも通常は、覚悟を決めて定期健診に行き、必要とあれば多少の恐怖心に耐えて通院治療をするものです。
しかし、痛みや出血といった自覚症状があってもなお、歯科医院に行くことができないという人がいます。
歯科医院に行くと考えただけで大量に汗が出たり、気分が悪くなったり、動悸が激しくなったり……。
ひどい場合はパニックで過呼吸になることもある症状を、「歯科恐怖症」と言います。
歯科恐怖症って?
「歯科恐怖症」は、過去の歯科医院での経験がもとになって発症すると言われています。
「子どものころ、無理やり口を開けさせられ、無言でどんどん削られた。歯科医院に行こうとするとそのときの痛みとキーンという音がフラッシュバックしてきて、どうしても1歩が踏み出せない」
「器具があたって血が大量に出たが、医師に『たいしたことはありません』と冷たくあしらわれた。以来、なんとか治療しようとしても気分が悪くなって吐いてしまう」
歯科恐怖症を抱える人たちの多くは、治療中に激痛を感じたり、ひどい出血があったり、医師に心ない言葉を浴びせられたりといったトラウマを抱えています。
では、実際に「歯科恐怖症」になると、どのような症状が起こるのでしょうか。
精神的な症状
・歯科医院に行くと思うと眠れなくなる
・極度の不安を感じて、パニックを起こす
・逃げ出したい衝動に駆られる
・足がすくんで動けなくなる
肉体的な症状
・大量の汗や震え
・吐き気
・嘔吐
・過呼吸
・動悸、めまい
こうした症状は、歯科医院に行った後や治療に入る瞬間に起きるだけでなく、歯科医院に行くことを想像しただけで起きる場合もあります。
さらに、不安や緊張が極限に達したときの精神的ストレスと肉体的ストレスを我慢して治療を続けると、貧血や吐き気に襲われたり、ときには意識を失ったりする「迷走神経反射(デンタルショック)」と呼ばれる症状を引き起こすことがあります。
歯科恐怖症は、治療をあきらめるしかないの?
歯科医院に行かねばならないとわかっていても、恐怖に打ち勝てず症状を放置してしまうと、当然ながら口腔内の健康は著しく損なわれてしまいます。
歯科恐怖症を抱える人は、どのように治療と向き合えば良いのでしょうか。
(1)専門外来を受診する
歯科的な症状と精神的な症状が併発している患者を心理的にケアしながら治療していく「心療歯科」で診てもらう方法があります。
東京医科歯科大学付属病院をはじめとした大規模な病院など、全国の複数のクリニックで導入されています。
(2)歯科恐怖症に対応してくれる医院を探す
「心療歯科」ではなくても、歯科恐怖症の治療に専門的に取り組んでいる医院はたくさんあります。
インターネットで検索し、電話などで「歯科恐怖症である」ことを打ち明けて、治療が可能かどうか聞いてみると良いでしょう。
長期的に慢性化した不安や恐怖、トラウマは、単に向き合っているだけでは解消することができません。
まずは1歩ずつ、できることから始めていくことが大切です。
歯科恐怖症の具体的な治療の進め方って?
最初から無理に治療をしようとすると、悪循環に陥りがちです。
そのため最初は、心理的な不安を取り除くためのカウンセリングからスタートすることがほとんどです。
重要なのは、「なぜ歯科医院が苦手なのか」「いつから苦手になったのか」といった会話から歯科恐怖症の発端となった出来事を明らかにし、医師との信頼関係を築いていくことです。
治療時間と治療期間は長くかかりますが、「この先生になら任せられる」という安心感、信頼感が次の治療へのステップになります。
このとき、「治療はどんな内容なのか」「どのような手順で行うのか」といった詳しい説明をしてもらうと具体的なイメージがつき、恐怖心を克服しやすくなるでしょう。
カウンセリングで自信がついたら、クリーニングや歯石除去といった治療以外の処置で、口の中に触れられることに慣れ、少しずつ実際の治療へ進んでいきます。
もし、それでも不安が残る場合には、緊張感を和らげる笑気ガスの使用もひとつの手です。
子どもにも使用できる安全性の高いガスなので、扱いがあるかどうか医師に打診してみても良いでしょう。
麻酔科医がいる歯科医院であれば、鎮静剤を静脈に点滴する静脈内鎮静法によってウトウトと眠っている間に治療を終わらせてしまうという方法もあります。
歯科恐怖症の克服は信頼できる歯科医探しから
歯科恐怖症専門の医院ではなくても、最近は「痛みのない治療」「削らない治療」に力を入れている歯科医院が増えてきています。
院内も開放的で、リラックスできる音楽やアロマテラピーなどを取り入れて緊張感の緩和に努めているところも珍しくありません。
無料カウンセリングなどを通じて、歯科医院の雰囲気に慣れつつ、信頼できる医師を探してみるのもお勧めです。
歯周病が進行して歯を失うことになったり、重度の虫歯が増えて負担の大きい外科手術をすることになったりする前に、少しずつ歯科恐怖症を克服していけると良いですね。
医科歯科ドットコム編集部コメント
歯医者さんが怖い、という人はよく見かけますが、「恐怖症」という病気になることもあるんですね…。
記事にもありましたが、大事なのは信頼できる歯医者さん探しです。
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監修日:2020年1月20日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医