歯磨きセットを家に忘れたり時間がなかったり 食後に歯磨きができないと、何となく口の中が気持ち悪いものです。
1日だけならまだしも我慢できますが、水が貴重な災害時や避難所生活などで、長期にわたって適切な口内ケアができない状態が続くと、体にも悪影響が出てきてしまいます。
そこでここでは、いざという時の備えとしてはもちろん、アウトドアや断水時など水が少ない環境でも役に立つ口内ケア術を紹介していきます。
口内ケアが重要なのは、高齢者だけの話ではない!
そもそも口内ケアとは何かといえば、歯や口の中を清潔に保つために行うケアのことです。
その代表はなんといっても歯磨きですが、舌の掃除やマウスウォッシュ(口内洗浄剤)を使ったうがい、歯科医院で行う専用の器具を使った歯のクリーニング(PMTC)を受けることなども含まれます。
私たちの口の中には、善玉菌と悪玉菌合わせて400種類以上の細菌が存在し、その数は歯をよく磨く人でも1,000~2,000億個、あまり磨かない人では1兆個にもなると言われています。
近年、震災関連死(地震の被害そのものではなく、その後の避難所生活での体調悪化や過労などが原因で死亡すること)の原因にも挙げられる高齢者の誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん:細菌が唾液や胃液といっしょに肺に流れ込むことが原因で起きる肺炎)の予防に関連して、特に口内ケアの重要性が注目されていますが、口内ケアが重要なのは何も高齢者だけに限った話ではありません。
年代を問わず、適切な口内ケアを行うことで、次のような効果が期待できます。
・虫歯・歯周病の予防
・口臭を抑える
・風邪やインフルエンザ、肺炎の予防
・心臓病のリスク低下、糖尿病の予防
など
災害時の避難所生活などでは、不規則な生活から来る睡眠不足やストレスなどで体の抵抗力が落ち、風邪やインフルエンザにかかりやすくなってしまいます。
その予防のためにも、口内ケアは重要な意味を持っているのです。
大さじ2杯分の水があれば歯磨きはできる
飲み水の確保が優先される災害時は、十分な水が手に入らないことも少なくありません。しかし、30ml(大さじ2杯分)の水でも、工夫すれば歯を磨くことができます。
やり方は簡単で、用意するものは歯ブラシとコップに入れた水、それからティッシュ(ウェットティッシュが望ましい)のみです。
水で歯ブラシを濡らしてから歯磨きをスタートし、途中ティッシュで歯ブラシの汚れをふき取りながら、歯ブラシを小刻みに動かして磨き、ふき取ることを繰り返していくだけです。
最後に大さじ1杯分くらいの少量の水を口に含み、2~3回ほどすすぎます。
ポイントは、多くの水が必要になるチューブ入り歯磨き粉の使用は避けることと、最後に一度ではなく2~3回に分けてすすぐことの2つです。
丁寧に磨けば、水に濡らした歯ブラシだけでも十分に汚れを落とすことができます。もし液体ハミガキや洗口液があれば、併せて使うとより効果的です。
歯ブラシが手に入らない時は、手近なものを使って
歯ブラシがない場合でも身近なものを利用することで、最低限歯の汚れを落とすことができます。
まずやっておきたいことは、食後に30ml程度の水やお茶を使って15秒ほどうがいをすることです。
もしハンカチやティッシュがあれば、指に巻きつけて歯の表面の汚れを取っておくだけでも違います。
また、殺菌作用があり、口の中の乾燥を防いでくれる唾液を上手く活用することもとても重要です。
避難所やアウトドアではトイレの事情などから水分を控えがちですが、水分はできるだけ摂り、食事はゆっくりよく噛んで食べるようにしましょう。
ガムを噛むことも唾液を出させる良い方法です。
キシリトール入りのガムは虫歯予防にも役立つので、手に入ればぜひ利用したい所です。
耳の真下をマッサージしたり温めてやったりすることで、唾液を出やすくすることもできるので、こちらも試してみてください。
医科歯科ドットコム編集部コメント
緊急時用のストックに食料や水を用意していても、歯ブラシまでは考えていなかったという人は多いのではないかと思います。
口内ケアは普段何気なく行っているだけに、ついつい軽く見がちですが、全身の健康にとっても大事なことです。ぜひ参考にしてみてください。
<参考>
一般社団法人 日本口腔ケア学会 災害時の口腔ケア
平成21年12月 厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究推進事業)「大規模災害時における歯科保健医療の健康危機管理体制の構築に関する研究」研究班 大規模災害時の 口腔ケアに関する報告集
一般社団法人 日本呼吸器学会
一般社団法人 日本訪問歯科協会
監修日:2019年11月13日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医