「歯」は食べ物を食べるためのもの、と長らく考えられてきました。
しかし、歯とあごの働きが「食べる」という人間の本能や、生命維持の原点からはじまり、顔の表情や人相を作り、さらに体全体の正しい姿勢の維持にも大きな関わりがあることが、最近の研究でわかってきています。「なぜ、デキる女は歯医者に行くのか?」は、歯と姿勢や顔相の関係について解説します。
歯の役割は、姿勢維持にも大きく関わっている
まずは、改めて顔の機能について確認しておきましょう。
頭部の目や耳、口、歯、あごなど、部位(器官)が担う機能は、大きく「呼吸する・咀嚼する・飲み込む・睡眠する・他人とコミュニケーションする」といったものにまとめられます。
人間が生きるために必要な、基本的な機能が顔に集中しているのです。
中でも「歯」は、これまで食べるための道具くらいにしか考えられていませんでした。しかし、歯とあごの働きは、正しい姿勢の維持など全身に影響を及ぼしています。
1日24時間の生活の中で、食事はトータルでも2時間くらい。残りの時間、歯は何もしていないように思えます。
しかし歯は、1本なくして噛み合わせがずれてしまうだけでも、顔や全身に大きく影響してしまうのです。
歯が首の骨、背骨、腰骨の正常化を助け、姿勢維持の機能を担っていることは、一般的にほとんど知られていません。
しかし、この機能は非常に重要です。片側の鎖骨がないとか、肋骨が1本足りないとか、片方の足が極端に短いという人はあまりいません。
しかし、奥歯が片方だけない人は周りにいませんか?
そして、歯がないことで顔の形が変化したり、体のバランスが左右に偏ることで、偏頭痛・肩こり・腰痛の原因になったりしているケースがあるのです。
1本の歯でも抜けたままにしておくと顔が変わる
顔の輪郭や容姿は、幼児期から青年期、老人期と、徐々に変化をしていきます。
しかしながら、たった1本の歯を欠けたままにしておくことでも噛み合わせが変わり、顔が歪み、口唇が傾き、口元のしわが増えるなど、顔全体に影響を及ぼします。
<1本の歯の欠如が顔全体に及ぼす影響>
・鼻の脇から唇にかけてあるシワ(ほうれい線)の深さが左右で異なってきます
・片側のほほの引きつれ(つっぱり)が強くなってきます
・上まぶた(眼瞼)が下方に被さってきます
・下唇が一方に寄って、上下の長さが不揃いになってきます
・左右の目尻と口角の高さに違いが出てきます(目尻と口角の距離が長くなります)
・あごのエラの張りが左右で異なってきます
・正面から見たときの鼻の穴の見え方に差が出ます(鼻穴変形)
・どちらか片方の顔のシミや肌荒れがひどくなります
・片側だけに大きな老人性斑が出てきます
乱れた噛み合わせを放置すると、本来なら噛み合わないはずの歯同士が接触を避けるため、通常は使用しない特定の筋肉が使われ、「筋肉のコリ」が生じます。
筋肉のコリは血流を滞らせ、肌のシミやくすみの原因となることもあります。
そして、コリの影響で柔軟性を失った筋肉が原因で、シワが深くなってしまい、最終的には顔全体のバランスが崩れてしまうのです。
歯の噛み合わせの乱れは、長期的に全身へ影響を及ぼします
人体の構造は、骨を中心に筋肉がそれぞれの部位を補強している寄せ木細工のようなものです。
骨を支えている筋肉の疲労が長期間続けば、骨にまで影響を及ぼします。先に説明したとおり、歯が抜けてなくなると噛み合わせが狂い、顔が歪んできます。
歯の状態が不調で噛み合わせが悪いと、顔の筋肉のバランスが崩れて、鼻の頭がずれた方向に曲がり、特定の筋肉が疲労し、その結果としてあごの位置がずれて、首と頭が傾いてくる可能性があります。
頭が一方に傾くと、やがて肩の高さが変わって背骨も曲がり、姿勢が崩れてしまいます。
また、背骨の曲がりと骨盤の歪みが、左右の脚の長さに影響を及ぼし、次第に全身症状を引き起こしてしまうこともあります。
つまり、こうした過程で特定の筋肉にこりが生じ、こりが血流を滞らせることが、肩や首のこり、偏頭痛、腰痛といった全身症状の引き金となります(咬合由来症)。
肩・首のコリや偏頭痛にも噛み合わせが関係する場合が多くあります。もちろん、すべての症状の原因が噛み合わせにあるとは限りません。
しかし、実際に噛み合わせの処置によって、長年悩まされていた原因不明の症状が改善する患者が多いのも事実です。
「背骨の歪みは万病のもと」といわれるくらい、噛み合わせの乱れには充分気を付けなければなりません。
子供の歯並びが悪いのは、柔らかいものばかり食べているから
昔は虫歯のある子供が多かったのですが、今は虫歯がない幼児や小学生が増えてきています。歯に対する保護者の意識が高くなったため、虫歯の子供が少なくなってきたようです。
しかし、ひとつ気になることがあります。それは、歯並びです。最近、歯並びに異常のある子供が増加傾向にあります。
歯並びが悪い、つまり一つひとつの歯の位置や角度が悪いと、歯磨きがしにくくなり、虫歯や歯周病になりやすくなるなど、噛む機能に支障をきたしてしまうのです。
では、なぜ歯並びの悪い子供が増えたのか?その理由は食べ物にあります。
昔の食事と違って、今の食べ物は柔らかいものが人気です。強く噛むことが少なくなるとともに、おのずと噛む回数も減ってきています。このことが歯並びに影響しているのです。
子供は6歳までが上あごの成長期で、それ以後は成長が緩やかになっていきます。
子供の歯が正しい位置にきれいに並ぶためのポイントは、成長のピーク時に「どこまであごを広げることができるか」にあるのです。
「よく噛んで食べなさい!」よりも効果的な子供がよく噛むための工夫
歯は、並ぶスペースができると正しい位置に並ぼうとします。
もし、歯が並ぶスペースがない場合は、歯は正しい位置に並ぶことができず、歯並びの列から離れてしまいます。
永久歯が正しい位置から生えてこずに、ガタガタの歯並び「叢生(そうせい)」になってしまう可能性もあるのです。
ですから、あごに適度な刺激を与え、歯を正しくきれいな位置に並ばせたいのであれば、子供によく噛んで食事をするように教育する必要があるのです。
しかし、そもそも柔らかい食べ物が多くなった今、「よく噛んで食べなさい!」と言っても「適度な刺激」を与えることが難しい場合もあります。
そこで、ひとつアドバイスをさせていただきます。
よく噛んで食べる物として、すぐ思い浮かべるものは何ですか?
そうです。「するめ」です。噛みごたえのある食べ物を食べると、あごの成長に大いに貢献します。
さらに、調理に次のような工夫を加えると、より効果が高まります。
食事でよく噛むようにするための工夫
・一口で食べられない大きさで出しましょう。
・食事には、前歯でかぶりつくような食材を必ず1品は出しましょう。おかずでなければ、海苔巻やデザートでも大丈夫です。
・野菜などは茹で時間を短くし、少し噛み応えがあるようにしましょう。
・食事には最低でも15分間をかけ、しっかりと噛んで食べることを習慣化しましょう。
このように、普段の調理法に少し工夫を加えるだけで十分です。今日からはお子さんの歯並びを良くするために、噛ませることを意識した調理をしてみてはいかがでしょうか。
良いあごが、良い顔を作る
顔の作りと歯並びは、大きく関係しています。成人の顔は15種23個の骨で作られています。その骨が互いに成長し、筋肉で維持されて、顔はできあがっていきます。そして、顔を作る骨の70%を上顎骨が占めています。いわゆる上あごの骨です。上あごに近い目や鼻も、この上あごの骨の成長に大きく関わっています。
あごの成長は6歳までがピークで、11歳から14歳で止まります。この段階でいかにあごをしっかり成長させるかが、歯並びだけでなく目や鼻の形にも影響を与えます。
小児矯正の治療においては、歯を抜いて整えることよりも、どうやってしっかり噛めるようになるかを重視することで、上あごの骨の成長を促します。
そうすると、自然ときれいな顔に仕上がっていくのです。このように、小さい時から歯並びに気を付けていないと、あなたの子供が成長したときに歯や歯並び、顔の形で苦労するかもしれません。
気になる方は、まずはお近くの歯科医院に相談してみてはいかがでしょうか?治療を始めたほうがいい時期や治療方法や期間を説明してくれるはずです。
※内容について、起こりうる可能性のあることを広くあげております。
類似の症状でお悩みの方は、直接歯科医院にて診断・相談ください。
<参考>
「なぜ日本人は歯を大切にしないのか」(ダイナミックセラーズ出版)
「人は見た目が9割」(新潮新書)
「デキるビジネスマンはなぜ歯がきれいなのか?」(ディスカバー携書)
監修日:2019年10月29日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医