10人に一人と言われる生え変わらない乳歯を持つ大人乳歯の治療体験記


はじめまして、ライター兼スナックのママをやっています佐々木沙絵子と申します。
日中はライターとして執筆作業。夜は「コワーキングスナック」という、コワーキングスペース的なバーカウンターの中で、ママとしてお酒を出したりしています。
スナックはWebやメディア関係の方々をはじめ、さまざまな業種の人たちが集うとても楽しい場所です。

そんな私、佐々木は現在26歳。北海道から上京して4年が経ち、大好きなライター業も軌道にのり始めた、そこそこいいオトナです。
しかし、まだ誰にも話したことがない子供の部分があります…。
実は…乳歯があるのです。というか、4本も残っています

ここです。

それが、2年前にうっかり虫歯になってしまいました。大人なのに乳歯の虫歯で治療…これが想像以上にたいへんだったのです。

というわけで、この場をお借りして、私の「大人乳歯」にまつわる、聞くも涙語るも涙のお話をお届けします。
最後まで、ぜひお付き合いください。
 

静かに隠れて存在していた乳歯

私のように生え変わらない乳歯がある状態のことを「先天性欠如(せんてんせいけつじょ)」と呼ぶそうです。
日本小児歯科学会の調査によると、子供の10人に1人が先天性欠如というデータもあります(2007~2008年)。

一般的に、小学校の低学年で生え変わるのが乳歯です。この先天性欠如に該当する人は、本来であれば胎児の時点で準備される「永久歯の芽(歯胚)」が用意されていないのです。その原因は不明で、防ぐための治療法はわかっていません。
乳歯は弱く、虫歯になりやすい上に、抜けるときは勝手に抜けてしまいます(後に生えてくる永久歯が無い場合、抜けないことも多いそうです)。代わりの永久歯がなくても遠慮なく抜けてしまう。
…引き継ぎもしないで抜けるなんて、子供かよ!
 
失礼しました。
そんな無責任が許される存在、それが乳歯なのです。

私の歯の中に乳歯が残っていることは、10代のころに別の歯の治療で歯医者に行って発覚しました。
乳歯の外見は永久歯とそこまで変わらない形や色なので、私自身はまったくわかりませんでした。
その後も私の口の中でひっそりと存在し、生え変わり時期に抜け落ちることもなく、さも永久歯であるかのように存在し続けてきた4本の乳歯たち。
20年以上ものあいだ、平穏に過ごしていた乳歯のうちの1本が、大きな虫歯になってしまったことで、事態は風雲急を告げるのです。
 

乳歯が旅立とうとしている…?

2015年の秋頃、左側の上の歯に残っていた乳歯が虫歯になってしまいました。
根深く進行してしまったため、全体を覆う被せ物をして銀歯にすることになりました。しかし、銀歯の治療が完治してから数ヵ月後、また同じ歯が痛み出したので、再び通院することになったのです。
 
担当の歯医者さんが言うには、前回治療したはずの乳歯に菌が感染し、虫歯が再発。そこからさらに歯の根も溶け始めているとのことでした。そこで、治療の手段が告げられました。
 
佐々木「え、抜かなくてはいけない…?」
 
歯医者さんA「レントゲン写真を見てのとおり、乳歯の根も溶けていますし、虫歯も深くまで進行しています。これは抜くしかないですね」
 
このとき、歯医者さんAから提示された治療法は、義歯(入れ歯)・ブリッジ・インプラントと、すべて「乳歯を抜く」という選択が前提の治療法でした。
 
聞き覚えのない治療法を淡々と説明されたものの、私は事態が理解できません。
乳歯ではあるけども、今まで歯の矯正なしに隙間なくきちんと生えそろっていた私の歯。歯並びの良さはちょっと自慢ですらありました。
親知らずの治療だってしたことがなかったので、「歯を抜かなくてはいけない」という予想外の事態に頭が真っ白になりました。
 
佐々木「え…本当に抜かなくてはいけないのですか?」
 
歯医者さんA「そうですねぇ…」
 
佐々木「…マジですか?まだ生えているのに??」
 
歯医者さんA「はい…」
 
佐々木「…本当に?本当の本当に?残す治療法はないんですか?」
 
歯医者さんA「はい。抜くしかないですねぇ」
 
私の必死の懇願も空しく(たぶん半べそ)、何度聞いても歯医者さんは困ったように突き放した応答をするだけです。
 
混乱する私を見かねてか、担当医はいったん帰って考えるように言いました。
 
帰宅してふと我にかえると、乳歯を抜くというショックが大きすぎて、治療法の説明が一切頭に残っていないことに気付いたのです。「そうだ。Google先生に聞こう!」と、改めてインターネットで調べます。
 
まずインプラント。
見た目はそんなに悪くない。しかし、支える軸を作るために顎の骨に穴をあけなくてはいけない。嫁入り前の顔に穴をあけるなんて…痛そう!金額も歯1本で15万円とかする!
 
ん?ブリッジという方法もある?
骨に穴をあけるリスクもないから良いかもしれない…けど、これは取り外しのできない入れ歯ってこと?固定するために、乳歯の両サイドの健康な歯を削らなくてはいけない?削る両サイドの歯も弱ってしまう?…怖い!
 
あ、義歯(入れ歯)だったらいけるかも。
骨に穴をあけるとか、歯を削るという必要はないけど…毎日入れ歯洗浄剤で洗浄?20代にして残りの人生を入れ歯と付き合っていくことになるなんて…いやだ~~!
 

 
小心者の私には、どれも怖い治療のように思えて仕方がありません。
散々悩んだ挙げ句、結局一人では決断することができず、改めて歯医者さんを訪ねます。
すると、前回と担当医が変わり、まさかの一言です。
 
歯医者さんB「まだ根が残っているから、急いで抜くと決めなくてもいいです。ひどくなったらまた相談しにきてください」
 
あれ…?抜かなくていいの??
 
前回は根が溶けているから抜くしかないと言われたのに、今回は根が残っているという診断結果でした。しかし、歯を存続させる治療法があるわけではなく、病状がひどくなったら結局は抜くしかないという診断。いったいどうするのが正しいのでしょう?身近に似た経験をした人や、インターネットに良い参考事例もなく、ただ途方に暮れていました。
 

歯は抜かないで済む!助けてくれた歯医者さんとの出会い

なんとか乳歯を抜かずに済む治療法はないだろうか?
 
そんなことを考えながら数日を過ごすうち、ふと地元の歯医者さんのことを思い出しました。幼少期から家族ぐるみでお世話になってきた先生です。診察台で泣きわめいたりして迷惑をかけてきましたが、いつも子供の私を安心させるように話を聞いてくれたのが印象的な地元北海道にある「医療法人社団道修会森歯科医院」の森先生です。
 

 
電話で歯の状況と東京の歯科医院ですすめられた治療法、どうしても歯を抜きたくないという私の願望を説明し、適切な治療方法がないかを相談しました。
 

 
森先生「実物を見ないことにはわからないけれども、抜かない方法での治療を検討してみましょう」
 
佐々木「えっ!本当ですか!」
 
視界が一気に明るくなりました。
歯を抜くという恐怖心から解放され、心の底からホッとしたのを覚えています。
 
東京の歯医者での診断から3週間後、治療のため実家のある北海道に一時帰省し、森先生のもとを訪れます。
 
森先生「なるほど。根は1本残っていますね。グラついてもいない。では、抜かない方向で治療をしましょう!」
 
診断の結果、晴れて歯を抜かない治療をしてもらえることになりました。
私の滞在日数の関係で、全4日の短期間集中治療プランを用意してもらいます。
 
治療方法は、乳歯の根を残しながら、虫歯になっている大半の歯を削り、詰め物をします。残った歯の根とわずかな乳歯の上から、本物の歯そっくりな色と形のかぶせ物を被せました。そのまえの治療で被せてあった銀歯を外して、入れ替えたような形です。そして、銀歯を替えたことで、見た目は治療前の元の歯そっくりに!
 
治療してから1年経った今も、何も異常はありません。
 

 

生まれ変わった乳歯、この先どうなる?

治療を終え、歯の最終確認をするときに森先生からアドバイスをいただきました。
 
森先生「佐々木さんの乳歯、今になって生え変わろうとし始めているのかもしれません。レントゲンで、ほら。歯の根が溶け始めてるでしょ?『あれ、私ここにいたらいけないのかもしれない』って今頃になって思い始めたのかも。だから、きみはここにいていいんだよって、言い聞かせてあげてください。」
 
えっ!私の歯にそんな自我があったなんて…。
こちらは必死に残そうと北海道まで治療しに来たというのに、なんて気持ちが通じない子なの!
 
とはいえ、乳歯は乳歯なりに気を使っていたのかと思うと、なんだか愛着が湧いてしまいます。これからは大切な乳歯に、毎日声をかけて「ここにいていいんだよ」って言い聞かせてあげなくては!
 
森先生「万が一抜けてしまっても、歯は取っておいてくださいね。両サイドの歯とボンドでくっつけてあげるから」
 
なるほど!ボンドで!
もし、私の想いが届かずに乳歯が旅立ってしまっても、ボンドという文明の利器で歯をつなぎ止めることができるのです。
私の乳歯への愛は、ボンドでつなぎ止めることができるんだ!
 
森先生、ありがとうございます!
北海道まで治療に来て、本当に良かった!
 

最後に

こうして、私の乳歯にまつわる旅は無事に終わりました。
私の周囲には大人なのに乳歯があるという人はほとんどなく、歯医者さん以外に治療方法を相談するあてもありませんでした。一度は抜くという選択を迫られた乳歯。
しかし、森先生は、自分のような小心者の、歯を絶対抜きたくないという要望を聞き入れてくれました。残っている乳歯の根に、可能性をかけてくれたのです。
当然、歯医者さんによって診断結果は変わってくるでしょう。今は技術も進歩して、抜いたとしてもインプラントやブリッジという治療法も選択できます。何が正しい判断なのかは、担当医や患者個人の症状によっても異なると思います。
ただ、もし私と同じように大人乳歯の治療法で悩んでいる方や歯医者さんに「抜くしかないですね」と言われて悩んでいる方がいらっしゃったら、ぜひ一例として参考にしていただけるとうれしいです。
1つの歯科医院の歯医者さんを妄信せず、納得のいく治療法を提示してくれる担当医を見つけることをおすすめします。

<参考>
日本小児歯科学会

 

医科歯科ドットコム編集部まとめ

乳歯にまつわる少し変わったお話でした。ですが私たちにも十分起こりうることだと考えると、ちゃんとした歯医者さんに巡り合いたいと思いますよね。
医科歯科.comを活用して、出来る限りの治療をしてくれる歯科医院を見つけましょう。

 
監修日:2019年12月18日
 

監修医 プロフィール

医療法人社団 輝 藤本歯科長洲医院
藤本 俊輝
歯学博士
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医