元プロ野球選手の森本稀哲(もりもとひちょり)さんと現役歯科医師である藤本俊輝(ふじもととしき)先生の対談の第二弾。テーマは「子どものスポーツで使用するマウスピース(マウスガード)とその普及について」です。
作製後、自分に合うように調整が必要なマウスピースですが、そのまま調整しないで使用することのリスクや、またスポーツ中に飲むドリンクについてもお話いただいております。現役でスポーツされる方やお子様をお持ちの親御様にとって参考になる対談です。
前回の対談記事はこちら『森本稀哲元プロ野球選手と現役歯科医師対談「プロ野球選手がマウスピースを使う理由とは?森本稀哲がエピソードを語る」』
子どもたちにもマウスピースを使うべき?しっかり合うものでないと危険!?
これから子どもたちがマウスピースをしていく時代が来ると思うんですけど、マウスピースをすれば力が出るとか、ケガをしないだけの知識は危険かなと思います。
そうですね。専門的に言うと、まずマウスピースはマウスガードとも言いますが、大きく分けて二種類あります。
一つは歯科医院でしっかり歯型を取って作るカスタムメイドタイプです。その場合はきっちり奥歯との噛み合わせ、前歯との噛み合わせを見ながら作ります。森本さんが作られたのはそちらだと思います。
もう一つは、現状マウスガードは保険適用ではありませんのでどうしても値段が高いということが出てきてしまいます。現在ですと、通販とかでかなりいろんなマウスガードが安価で出ています。
しかし、その場合は単にシートを購入して、お湯とかで柔らかくして、柔らかい状態で口の中にカパッと入れて、適当にカパッと噛んで固める。それだけの物なんです。後はカットするだけ。
ぇええ!危険じゃないですかそれ!
そうなんです。ちゃんと合っているかもわからないし、どこで噛んだらいいのかもわからない。逆にそういうマウスガードを使っていると、厚みなども合ってないから息苦しいとかあるかもしれません。
僕も紹介していただいたところでは、まず歯型を取りました。その数日後に、そのマウスピースが来て、そこから調整をして使えるようになりました。
ですが僕が紹介した後輩は、歯型を取りその後マウスピースが届いた後、削れるように元々大きめに作られているのに調整せずにそのまま使いました。全く歯型が合っていない状態で・・・。その選手はケガ明けではじめてブルペンで投げるときマウスピースをつけてしまったんですね。
そしたら腰を痛めたんですよ。あれだけ合わせに行けよ、合わせに行かないと使えないからと言ったのに使って、それが原因かどうかは分からないですけど、結果的にはケガをしてしまって・・・。「あ!これマウスピースってちゃんと合うものを使わないと身体に負担がくるんじゃないかな?と。」
実際リハビリをしっかりして今日からという状況だったので、身体はそんなに悪くなかったと思います。ただそこで合わないマウスピースをつけてしまったので、余計に負担がかかってしまったのではないかなと思ったんです。
今の先生のお話を聞いたら、単にただ歯に挟めるものを挟んだらプラスになるという考え方は危険かと思いますね。
噛み合わせがずれた位置でマウスピースを入れた人と、真っ直ぐな状態のマウスピースを入れた人が、目を閉じてステップするという実験がありました。
真っ直ぐな方はステップしてもその場からそれほどずれていかないですけれども、それがずれた噛み合わせのマウスピースを入れた方だとやっぱりその場から曲がっていってしまいました。
(笑)
ビデオを見たんですけど、こんなに違うんだというくらい顕著に出ます。
でも今後、子ども用のマウスピースとか含めて、多分すごく主流になっていきますよね。またさらに進化してちゃんと保険がおりたり、値段も抑えられて、普段から使えるようなマウスピースが出てくると思うんですよ。
歯科医師のサイドから言っても、お子さんが使うのであれば保険適用されるというのは大事かと思うので働きかけはしています。
乳歯から永久歯に生え変わりの時期ではあるので、生え変わってしまうとまた合わなくなってしまいます。そうすると、どうしても1年くらいで作り替えてって言う話になると思うので、保険適用になればいいと思います。
我々もマウスピースに名前を入れたり、色をいろいろ入れたりせず、シンプルなものであればそんなに作るのは大変ではないんですよ。
であれば、お子さんとかに関してはなるべくスポーツドクターですとか、スポーツデンティストとかそういうところからチームごとにやってもらうようにすればどんどん広まって、値段も下がっていってという話になるんじゃないかなとは思っています。
そういう時代になってきつつある中で、お父さんお母さんも噛み合わせとかにすごく興味を持っていただきたいなと思っています。
まずは噛み合わせということに興味を持っていただき、マウスピースをつける前に、自分の歯の噛み合わせがしっかりできているのかどうかということを診てもらいたいし、そういう先生たちももっと今後増えていったらうれしいですよね。
そうですね。2019年はラグビーのワールドカップがあって、2020年は東京オリンピックがあって、かなりスポーツが身近に感じられる時期ですので我々としてはもうちょっと発信をしていきながら、吉田輝星選手から始まってそういうところからもきてますけれども、そのような流れで進めていければいいかと。
スポーツの学会専門医というものもありますが、かなり少数です。そうするとどうしても絞られちゃってという話になってくるので、敷居を低くして誰でもある程度のマウスガードが出来るようになっていけばいいと思います。
今後マウスピースは、さらに進化していって主流になると僕は思っています。
そうですね。森本さんがいろいろ発信していただければそれこそありがたいですけどね。
僕なんか最初の方につけていたのに、だれも気付いてくれずに・・・(笑)
気付かないようなものを使っていたというのもありますけど奥だけ普通のやつで前だけ細いやつを使っていたので一見見た目は分かりづらいものを使っていました。
マウスピースの形態についても色々な流れがあって、今ある程度どういう形がいいかというのも一つの形ができてるみたいですので、そこにだんだん行き着いてっていう形になるんじゃないかなと思いますけどね。
スポーツ関係の話なんですけど、先ほど寝ているときに食いしばりの話(森本稀哲元プロ野球選手と現役歯科医師対談「プロ野球選手がマウスピースを使う理由とは?森本稀哲がエピソードを語る」)されていましたけど、トップアスリートとか、ラグビーの選手とかすごい首が太いじゃないですか。
肥満の方もそうですが、睡眠時無呼吸症候群って話きいたことありますか?
よく実験とかでぐぉっぐぉっみたいな(笑)
息が止まっちゃうあれです。スポーツ選手とか鍛えられて、首が太くてすごいですもんね。気道が閉塞されて、本当に寝ている時にいびきが止まってとかいうことがあるみたいです。
せっかくスポーツに目が向いているところですし、その辺に対応するのもマウスピースを入れたりする話なので、啓蒙していきたいと思います。あとはスポーツドリンクですかね。やっぱり飲み物はスポーツドリンクですかね?
僕はあんまりスポーツドリンクが好きではないので、お水を飲むんですけど、暑い時とかは、なんとなく水だけでは身体が足りないなって言うのを感じるんです。すっごい熱いときとかはスポーツドリンクを飲むようにしていましたけど。
結構スポーツドリンクって甘いですよね。
やはり、虫歯の要因、原因になりますので、特にマウスピースを入れるスポーツ、ラグビーの選手とかですけれども、マウスピースの中にスポーツドリンクが入っていて、歯が浸っている状態です。ずーっと過ごしていると、虫歯になってしまうリスクがどうしてもあります。
そっか。隙間に入っちゃいますもんね。
そうですね。スポーツドリンクを飲んだ後に水を飲んでらっしゃったってことはすばらしいことだったと思います。
また、栄養的には塩分とかミネラルとか糖分が必要になるかとは思いますが、小学生、中学生などのお子さんや保護者に対しても、その辺のこともちょっと考慮していただければよろしいんじゃないかなと。
たしかに。マウスピースをしたままスポーツドリンクを飲んで、ずっとつけっぱなしにするということは、糖分を歯に浸しているようなものですよね。
ホワイトニングとかそうじゃないですか。ジェルをマウスピースに浸してそれで歯を白くするんですけど、その代わりに歯を溶かすような虫歯発生装置になっちゃうような感じですからね。
編集部まとめ
自分に合っていないマウスピースを使うことは歯を守ってくれるものからケガにつながってしまう可能性があり、単につければ良いというものではなく、しっかりと自分に合ったものを使うことが大切ということが分かりました。
今後、スポーツで使用するマウスピース(マウスガード)が保険適用になり、普及していって欲しいですね。
取材日:2019年11月1日
プロフィール
<略歴>
千葉県出身
日本大学歯学部卒業
日本大学大学院歯学研究科歯科臨床系卒業
千葉大学医学部附属病院歯科・顎・口腔外科研修プログラム修了
<資格及び所属>
歯科医師・歯学博士
医療法人社団輝 理事/藤本歯科長洲医院副院長(千葉県千葉市)
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会専門医・指導医
日本顎咬合学会かみ合わせ認定医
日本口腔インプラント学会専修医
日本磁気歯科学会認定医
プロフィール
CKPLAT所属
元プロ野球選手、講演家、野球解説者高校野球の名門・帝京高校の主将として甲子園に出場。
1999年ドラフト4位で日本ハムファイターズ
(現北海道日本ハムファイターズ)に入団。
2006年には1番レフトとして活躍、チームを日本一へと導く。
その後、2011年横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。
2014年、埼玉西武ライオンズへテスト入団。
2015年9月、17年間にわたるプロ野球人生を終え、現役を引退。通算成績は、1272試合、3497打数904安打、33本塁打、521得点、267打点、106盗塁、打率.259。
2006年、2007年はパ・リーグ最多得点。
2006年から2008年まで3年連続ゴールデングラブ賞を受賞し、2007年ベストナインに選ばれる。現在は、経営コンサルティングを手掛ける『CKPLAT』に所属。
野球解説やタレントとしてテレビ・ラジオ出演のほか、講演活動も行っている。著書『気にしない。どんな逆境にも負けない心を強くする習慣』(ダイヤモンド社)
森本稀哲オフィシャルサイト