人間が生きていく上で欠かせない行為である、食事。食事を不自由なく楽しむためには、健康な歯が必要不可欠です。そして、丈夫で健やかな歯を維持していくには、子供のうちから適切なデンタルケアを行う習慣を持つことが重要なポイントになるといわれています。そこで今回は、子供の歯の性質や乳歯が虫歯になることの怖さ、正しいケア方法などについて、歯科医師の秋山恵里奈先生に伺いました。小さな子供を持つ保護者の方は、ぜひチェックしてみてくださいね。
乳歯から永久歯に生え変わる時期は虫歯になりやすい
子供は、赤ちゃんでも歯が生えはじめたときから虫歯になるリスクがあります。年齢には個人差がありますが、乳歯から永久歯に生え変わる6歳くらいからが要注意です。なぜ、生え変わりのタイミングは虫歯になりやすいのでしょうか?理由は以下の3つが挙げられます。
【理由1】上下の歯がうまく噛み合わない状態だから
物を食べるとき、私たちは上下の歯で食べ物をすりつぶすように咀嚼し、消化しやすい状態にしてから飲み込みます。この上下の歯がすり合う(食べ物をすりつぶす)ときに、歯の咀嚼面に付着した食べカスはほとんどが自浄作用により自然と落ちるようになっているのです。歯が生えてきた子供も大人と同じように咀嚼しますが、乳歯が抜けて永久歯が少しだけ顔を出している状態では、対向する歯と噛み合うことができません。つまり、歯の表面にたくさんの食べカスが残ってしまいます。これが、虫歯のリスクを高めてしまう原因になるのです。
【理由2】乳歯と永久歯とでは大きさが異なるから
皆さんご存じのとおり、永久歯は乳歯に比べて大きくなります。つまり、生え変わりのタイミングでは、口の中の所々で大きさの異なる歯が生えている状態になり段差が生じます。すると、どうしても歯ブラシが届きにくい場所ができてしまい、磨き残しが発生して、虫歯菌の温床となってしまうのです。
【理由3】大人による仕上げ磨きをしなくなるから
歯磨きの自立が原因で虫歯になる子供は多くいるといわれています。子供が小さいうちは保護者が仕上げ磨きをしますが、小学校に上がる頃から徐々に子供でも一人で歯磨きができるようになりますので、大人がチェックする機会が減っていくご家庭もあるかと思います。とはいえ、小学生の歯磨きでは十分に汚れを落とすことは難しいでしょう。
以上の3つが、乳歯から永久歯に生え変わるタイミングで虫歯リスクが高まるおもな原因です。では、乳歯が虫歯になることで、どんなデメリットがあるのでしょうか?
要注意!永久歯にも悪影響を及ぼす「乳歯の虫歯」の怖さとは
「乳歯はいずれ抜けて、健康な永久歯に生え変わるのだから、虫歯になっても気にしなくていい…」と、考えている保護者の方は意外と多いかもしれません。しかし、乳歯が虫歯になる影響は、あとから生えてくる永久歯やお口全体に及ぶこともあります。乳歯が虫歯になることのデメリットについてもまとめておきましょう。
【乳歯の虫歯がもたらすデメリット1】歯並びが悪くなる
乳歯の生え変わりには順番があります。
そして、最後に生えてくる永久歯として、前歯から数えて5番目の場所にある「第二小臼歯」があります。ありがちなケースとしては、乳歯の虫歯を放置してしまい、治療のために第二小臼歯の場所にあった乳歯を抜かなくてはならない場合、隣に生えてくる6番目の永久歯(第一大臼歯)が正しい位置や方向に生えてくることができず、歯列が乱れてしまうというものです。これを「鞍上歯列(あんじょうしれつ)」と呼びます。
鞍上歯列が起きてしまう流れは、以下のとおりです。まず、歯茎から顔を出すまえの6番目の永久歯(第一大臼歯)は、隣の5番目の歯にぶつかることで、徐々に上向きに生えてくるように方向を矯正していきます。しかし、このとき5番目の歯を虫歯治療のために抜いたりしていると、6番目の歯は本来ならぶつかるべき歯がないために、通常よりも前歯に近い5番目の歯があるべき位置で生えてしまったり、斜めに生えてきてしまったりします。虫歯になった乳歯を抜いてしまったことで、生えてくる永久歯が本来と違う場所に生えてしまうのです。そして、最後に生え変わる5番目の歯(第二小臼歯)は、先に生え変わった6番目の歯が誤った位置・方向に生えていることで、本来なら生えるべきスペースを失ってしまいます。すると多くの場合、5番目の歯は生える場所を求めて歯の舌側にずれて生えてきます。こうして歯列が乱れてしまうのです。
5番目の歯を抜いて、そのままにしているような場合は速やかに歯科医院にかかり、「ディスタルシュー」(保隙装置)という歯の代わりになる装置を入れることが必要です。「乳歯はいずれ抜けるものだから」などと言って放っておくと、こんな恐ろしい事態を招きかねません。
【乳歯の虫歯がもたらすデメリット2】次に生えてくる永久歯がエナメル不全になってしまう
乳歯の虫歯を放置していると、虫歯菌が歯の根の部分にまで進行し、根の先端に膿が溜まります。この膿が、次に生えてくる永久歯に悪影響(エナメル不全)を及ぼすのです。
このような悪影響を受けた歯は「ターナー歯」と呼ばれ、具体的には以下のような症状が現れます。
・永久歯が黄色や茶色になったり、歯の先端だけ濃い白色に変色したりする
・永久歯に穴が開いたり、でこぼこしたりする
・永久歯が欠けている
ターナー歯は、酸に弱く汚れが溜まりやすいので、虫歯になるリスクが高くなります。健康な永久歯を育てるには、乳歯の虫歯を予防することが重要なのです。なお、乳歯は痛みが出にくいため、虫歯になっていても気が付かないケースがあります。仕上げ磨きや定期検診できちんとチェックしてあげることが欠かせません。
パパ・ママ必見!子供を虫歯から守る3つのセルフケア
大切なお子さんの歯を虫歯から守るためには、何となく歯ブラシで磨くだけでは不十分!日頃のセルフケアが重要です。
以下のポイントを実践して、常に歯をきれいな状態に保ってあげましょう。
【セルフケア1】正しい歯ブラシの使い方をマスターする
同じ時間をかけて歯磨きをしても、正しく歯ブラシを使えている場合とそうでない場合とでは、磨き上がりに大きな差が出ます。歯ブラシを適切に使い、きちんと汚れを取り除けるようになりましょう。具体的には、以下の点を意識してみてください。
・歯ブラシが歯に対して垂直になるようにあてる
・一度に何本も磨かず、一本ずつ丁寧に磨く(歯ブラシを動かすストロークを大きくしない)
・歯ブラシを振動させるように小刻みに動かす
・毛先が広がらないくらいの優しい力で磨く
なお、特に注意して磨きたいのは奥歯です。歯と歯の隙間や歯茎との溝には汚れが溜まりやすいため、歯ブラシでかき出すように磨いてあげましょう。また、仕上げ磨きをする際の利き手側にある糸切り歯も磨きにくい部分なので、丁寧に磨くように心掛けてください。
【セルフケア2】デンタルフロスで歯間もケアをする
永久歯は歯と歯がぴったりと接している面積が小さいのに対し、乳歯は大きいのが特徴です。つまり、永久歯は隣の歯と「点」で接しており、乳歯は「面」で接しているのです。そのため、歯と歯のあいだに汚れが溜まりやすく、虫歯のリスクも高くなります。そんな歯と歯のあいだの虫歯を予防するには、大人と同じようにデンタルフロスを使用することが必要不可欠です。きちんとアイテムを使い分けて、細やかなケアをしてあげてください。
【セルフケア3】仕上げ磨きを子供に嫌がらせない
多くの子供は、歯磨きを嫌がるものです。特に仕上げ磨きを嫌がる場合は、好きな味の歯磨き粉を使ったり、絵本やアニメーションで歯磨きの意味を説明してあげたりすると効果的です。中でも秋山恵里奈先生のおすすめは、子供に大人の歯を磨かせてあげることなのだそうです。「自分がいつもやってもらっている仕上げ磨きを子供にやらせてあげることで、自分が普段何をされているのか、どうして歯磨きが必要なのかを体験して学ぶことができます。また、歯磨きという行為自体に興味を持つきっかけにもなります」とのことでした。
これなら、子供にとって仕上げ磨きが遊びの延長になるのではないでしょうか?仕上げ磨きは、親子のコミュニケーションの時間でもあります。ぜひ、お互いが楽しめる工夫をしてみてください。
健やかな口内環境を育てるためにはプロの力も借りるべき!
正しいセルフケアを行っていても、磨き残しはどうしても発生します。秋山恵里奈先生によれば、「どれほどデンタルケアに熱心な大人でも、セルフケアだけでは不十分」とのことなので、これは仕方がないことといえるでしょう。そこで重要になるのが、歯科医院とのお付き合いです。プロの力を借りることで、子供の口内環境を、より健全なものに整えてあげましょう。具体的には、3ヵ月~6ヶ月周期で歯科医院に通うのが理想的です。処置の内容は歯科医院によって若干異なりますが、おもに以下のようなものが挙げられます。
・虫歯などの歯の異常がないかをチェックする
・磨き残しの有無を確認し、クリーニングや歯磨き指導を行う
・フッ素を塗布する事で、歯質強化、再石灰化の促進、酸の産生を抑制する。
・歯の溝をプラスチックで埋める「シーラント」を行い、汚れが付着しにくい歯にする
※シーラントの中にはフッ素含有の物もあり、虫歯の予防効果が期待されます。特に、子供のうちは歯の表面(エナメル質)が大人に比べて弱いため、フッ素塗布による虫歯予防が非常に効果的といわれています。
また、歯科医院に通うことで発見できるのは、虫歯だけではありません。
秋山恵里奈先生によると、子供は噛み合わせのちょっとしたずれで、通常と逆に上の歯が下の歯の内側に入ってしまうケースが見受けられます。これを見逃さずに早い段階で治療してあげれば、比較的簡単に治すことができます。しかし、気付かずにそのまま成長してしまうと、大人になってから大がかりな矯正が必要になるのです。永久歯が生えてくるタイミングであれば、歯列矯正も少ない負担で行うことができます。
乳歯から永久歯に生え変わるタイミングは、虫歯になりやすいというデメリットがある反面、健やかな口内環境を作る絶好の機会でもあるといえるでしょう。丈夫な歯は、何ものにも代えがたい財産です。子供のうちから保護者がしっかりとオーラルケアに取り組み、強い基礎を作ることは、その子の一生の健康をサポートしてあげることにつながります。プロの力も借りながら、ぜひあなたの手でお子さんの健やかな成長を支えていってください。
医科歯科ドットコム編集部コメント
子どもの虫歯って怖いですね…。永久歯はもちろんですが、乳歯の虫歯にも気を付けないといけないんですね。これを機に、歯医者さんと一緒に子どもの歯のケアのこと、考えてみませんか?お近くの歯医者さんを医科歯科.comで探しに行きましょう!
監修日:2019年12月10日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医