「歯科治療」と聞くと歯を削るドリルの「キュイーン」という音を思い出し、「怖いから歯医者には行きたくない」という方は多いのではないでしょうか。しかし医学の世界は日進月歩です。現在では昔に比べて治療法の選択肢も増え、従来型の「削って詰める」だけでなく、薬を使うことで削る部分を少なくし、状況によっては削らずに治療を完結できる方法も登場しています。
初期の虫歯なら、削らなくても治せる可能性あり!
そもそも虫歯は、細菌による感染症です。虫歯菌が出す酸により歯が溶かされてしまった状態です。初期段階では自覚症状はありませんが、進行すると、しみたり痛んだりなどの症状がでてきます。このうち、まだエナメル質に穴があく前のような初期段階か、または小さな穴しかあいていないような場合には、早い段階で発見・処置をすることで、場合によっては、虫歯になるのを食い止め、自覚症状が出るほど虫歯が悪化するのを防止できます。例えば、次のような治療法です。
虫歯になりかけの場合:高濃度フッ素・デュラファットを塗る
フッ素塗布は子どもの虫歯予防に使われるイメージが強いですが、
・虫歯菌が酸を作る働きを弱める
・歯の再石灰化(歯から溶け出したカルシウムやリンを葉の表面に戻す働き)を促進して歯を修復する
・歯のエナメル質を強化する
という3つの働きがある優れものです。デュラファットは、そのフッ素が一般の歯磨き剤のフッ素濃度950ppmの約23~24倍の2万2600ppmも含まれているもので、虫歯になるのを防いだり、初期虫歯の進行を止めたりする効果が期待できます。
エナメル質に少し穴があいている場合:カリソルブで虫歯だけを溶かして除去
もうすこし虫歯が進んで、表面のエナメル質やその下の象牙質まで穴があいてしまっている場合、まず虫歯になった部分を取り除き、虫歯菌を完全に除去した上で、被せ物で密閉する必要があります。この「取り除く」時に従来の方法では歯科ドリルが登場するわけですが、ドリルに代わる方法として注目されているのが、「カリソルブ」という虫歯に侵された部分だけを柔らかくする薬を使う方法です。周りの健康な組織まで削らなくてよいのが最大のメリットで、薬を効果的に投入するために少し削ることはありますが、従来の方法に比べて削る部分は少なくて済みます。虫歯を除去した後は、詰め物をすることになります。日本では2007年に厚生労働省に認可されました。
象牙質や神経まで達している場合:削らずに治療できるドックスベストセメント
さらにもう少し進み、虫歯が象牙質や神経の側まで達している場合でも、症状によっては削らなくてよい場合もあります。
ドックスベストセメント
「銅イオン」を主成分とし、殺菌と酸によって軟らかくなった歯を硬くする働きのある薬です。虫歯部分を除去する必要がなく、薬を詰めるだけで殺菌と予防の効果があるので、歯を削る必要がないのが何よりのメリットです。日本では保険治療として認可されていないので自由診療になりますが、アメリカではFDA(アメリカの厚生労働省)の認可を受けて商品化されており、ヨーロッパ諸国やアメリカでは一般的に用いられている治療法です。
MTAセメント
主に歯の神経を守るために使われる治療法です。虫歯が酷くなり、歯髄(歯の神経)やその近くまで達すると、神経を取らなければいけない場合がありますが、神経を取った歯はもろくなり、歯の寿命は短くなってしまいます。そこで、従来の方法に比べて高い確率で神経を保護するために開発された治療法です。治療はまずドリルなどで虫歯を取り除き、殺菌・消毒した後、MTAセメントで露出している神経を封鎖するという手順になります。歯の神経を守り、寿命を延ばすのがメリットです。2007年に薬事認証されていますが、治療は自由診療になります。
3MIX-MP法
3種類の抗菌剤を混合した薬を使うもので、MTAセメントと同じように、歯の神経を保護することを目的に使われる治療法です。
まとめ
虫歯治療に薬剤を使う方法は、「無痛治療」「削る必要なし」などのキャッチフレーズと共に紹介されることが多いですが、従来の方法に比べて削る部分は少なくても、ゼロになるかどうかはケースバイケースです。実際に治療を受ける際には、歯科医師に相談した上で自分の歯の状態にあった治療法を選ぶようにしましょう。
<参考>
予防歯科から生まれたクリニカ
http://clinica.lion.co.jp/oralcare/fluorine.htm
医科歯科ドットコム編集部まとめ
初期の虫歯であれば、削らずに済む可能性も大いにあるんですね。ですがそれは裏を返せば、初期の虫歯でなければ削らずには直せないということでもあります。いずれにせよ、歯にトラブルを感じれば一刻も早く歯医者さんに診てもらうことが大切です。
監修日:2019年10月16日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医