歯の噛み合わせが悪いと、虫歯や歯周病になりやすかったり、肩こりや不眠、倦怠感につながったりと、さまざまな弊害があるといわれています。悪い噛み合わせは早く治療したほうが良いのですが、痛みや腫れもないのに歯科医院へ行くのは気が進まないという方も少なくないでしょう。また、「歯を削ることに抵抗がある…」という人もいるのではないでしょうか。幸いなことに、噛み合わせを調整する方法はひとつではなく、歯を削らなくてもいい場合もあります。そんな方法のひとつである、「マウスピース」を使った噛み合わせの治療方法を紹介します。
歯科治療で活躍するマウスピース
歯科治療とマウスピースと聞いて、最初に何が思い浮かぶでしょうか?「歯ぎしりの治療」という方もいれば、「ホームホワイトニング(歯科医師の指導の下に自宅で行う、歯を白くするための治療)」という方もいるかもしれません。
マウスピースは歯科のさまざまな症状の治療に使われており、代表的なものとして以下の5つの目的に分けられます。
1. 痛みの緩和や症状悪化の防止用
長い期間、噛み合わせが悪いままで過ごしていると、顎関節に痛みが出たり、歯が磨り減ることで「知覚過敏」が起きたりする場合があります。このような症状を抑えるために使われる、やわらかいマウスピースです。おもに、本格的に噛み合わせの治療に入るまえに使用されます。
2. 顎関節症治療用
「口を開閉するとあごの骨がカクンと鳴る」「口を開閉する際に痛みがある」といった場合には、顎関節症の治療に用いられる、硬めのマウスピースを使用します。これは、噛み合わせを調整しながらあごの位置を整えることを目的としています。一人ひとりの状況に合わせて作られますので、素材や形・大きさもさまざまです。
3. 矯正用
悪い噛み合わせの原因が、そもそもの歯並びの悪さにあるようなときに用いられる物で、時間をかけて歯を動かしていくために使われます。さまざまな種類がありますが、装着時間は1日20時間ほど。やわらかい素材の物から使い始め、徐々に硬いマウスピースへと交換していくのが一般的です。
4. 歯ぎしり防止用
就寝中の歯ぎしりは、歯を痛めてしまう原因になります。歯ぎしりの原因はストレスなので、歯科の治療だけで完全に治すことは難しいですが、「ナイトガード」とも呼ばれるマウスピースを使うことで、歯に与える悪影響を抑えることができます。
5. スポーツ用
激しいスポーツをする際に口やあごを保護することを目的とした、スポーツ用のマウスピースもあります。ボクシングが有名ですが、バスケットボールや野球など、さまざまなスポーツにも普及しており、学校の部活動でも採用され始めています。スポーツ用のマウスピースは、やわらかく弾力性のある素材で作られています。
マウスピース治療だけで噛み合わせが治せる場合も!
先に紹介した5つのうち、噛み合わせ治療と特に関係の深いものは「顎関節症治療用」と「矯正用」です。
「顎関節症治療」では噛み合わせが悪いところにスプリントと呼ばれるマウスピースを使用します。「噛み合わせが悪い」とは、あごの関節や周囲の筋肉が一番リラックスする場所では、上下の歯がうまく噛み合わず、そこを無理矢理噛むためにあごの関節の位置がずれてしまい、あごや周辺の筋肉に負担がかかっている状態です。スプリントは、このずれてしまったポイントを修正するための器具です。歯に装着することで、噛むポイントを正しい位置へ導いて関節のずれを修正し、周りの筋肉の緊張と負担を取り除く効果があります。そのため、顎関節症の症状である口の開閉音や肩こり、頭痛などの緩和に役立ちます。通常は、就寝中に装着します。スプリントの使用によって顎関節が安定し、噛み合わせの不具合が修正された場合は、これ以上の治療は必要ありません。
しかし、歯並びの悪さや奥歯の高さ不足などが原因で顎関節がうまく噛み合わない場合は、しばらくスプリントを使って顎関節が安定したあと、矯正治療で歯を動かしたり、被せ物治療で歯の高さを調整したりする必要があります。そのような矯正段階で活躍するのが、一般的な歯列矯正で使用するワイヤーやブラケットの代わりに使われる矯正用のマウスピースです。透明な素材が多いため、一見すると矯正中であることが目立たない、取り外しが可能、歯を削る噛み合わせ治療と異なり元に戻すことが可能など、さまざまな利点があります。また、費用は通常のワイヤー矯正とほぼ同じです。噛み合わせが悪くなる原因は人それぞれです。どんな人にも適しているとはいえませんが、マウスピース治療は様子を見ながらゆっくりと噛み合わせを調整できるというメリットがあります。ただし、そのメリットを活かすためには、使用するマウスピースの微調整が欠かせません。
もし、マウスピース治療を行いたい場合は、市販の物を買い求めるのではなく、まずは歯科医院を受診して目的に合ったマウスピースを作ってもらうようにしてください。
医科歯科ドットコム編集部まとめ
歯を削らなくても大丈夫だなんて!削らなければいけないといわれて不安な方はセカンドオピニオンを求めに行っても良いかもしれませんね。
監修日:2019年10月16日
監修医 プロフィール
藤本 俊輝
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅱ講座兼任講師
日本補綴歯科学会 専門医・指導医
日本磁気歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専修医