今回は歯科治療向上のための研修機関であるJIADS(The Japan Institute for Advanced Dental Studies)の理事長を務めてらっしゃるタキノ歯科医院の瀧野先生にインタビューを行いました。歯医者さんの中でもより進んだ技術を積極的に勉強されていく方々を率いる立場である瀧野先生。そんな歯科技術の最先端にいる先生のお話は必見です。
歯科治寮の研修機関であるJIADSについて
去年からJIADSの理事長をさせていただいておりますが、JIADSというのはいわゆる最先端医療技術機関という風に言われていますが、多くの歯科医師の先生方が大学を卒業されて、次のステップとして研修を受けられる、歯周病や外科や補綴などいろんな科があります。現状、日本の大学教育というのはすばらしいが、やはり卒業してからもずっと勉強が必要になっているということで、こういう機関を利用してもらって、研修をおこなっています。
特徴としては、特に歯周病の治療を専門的にしている先生が多いです。歯周病というのはとにかく日本人の30歳以上の8割が罹患しているといわれていますし、歯周治療をベースとした全体の口の中の健康を維持する為の治療ということでおこなっています。
歯周病治療における再生医療とは?
特にその中で、いま我々が注目しているのは再生医療です。いわゆる再生医療といいますと、ノーベル賞を取られた山中先生とかが有名ですけれども、歯科の分野でも非常に進んでいて、歯の周りの骨を再生する、もしくは歯の周りの骨や歯茎、歯肉を再生させるような治療をする等、どんどん新しい薬品が出たり、再生の分野で非常に発展が著しいので、大変注目しています。数年前に、日本から世界で最初の再生医療薬品が発信され、日本では再生歯科治療が進んでいますし、我々も非常に注目しているところです。そして、再生という歯を保存して残しておけるということが、患者さんにとって非常に大きなメリットに繋がりますし、我々は安易に歯を抜くのではなくて、自分の歯を大切にするというところで再生医療というものに注目をしてできるだけ歯を長持ちさせるということが、歯科医師の使命だと考えています。
「ライフステージを⾒据えた治療計画」についてというのはどういったことなのか
若い方から高齢者の方まで多くの方が来院されます。その中でそれぞれの方のライフステージに合わせた治療というのが最近注目を浴びています。特に高齢者の方は100年ライフという風に呼ばれていますし、今まではそこまで考えなくて良かったことが、今は100歳まで健康寿命を維持するという意味でも、その方にあったライフステージを見据えた治療に注目しています。
ですから若い人で言えば、まずはできるだけ歯を失わないような、歯をなるべく保存するような治療、そしてその先10年、20年、30年それ以上を見据えた治療をしていかないといけないですね。
逆に高齢者の方になりますと、なかなか大きな手術が受けられなくなったりなどの制限も出てきますので、年代にあった先を見据えた治療をする。今までの行き当たりばったりの治療ではなくて10年、20年先、その方のライフステージを考えた治療をするという事が、すごく重要になってきていると思います。
家庭でも出来る子供の⻭のケアについて教えてください。
子供のセルフケアは、自分自身でしっかりと歯磨きをすることが一番大事です。それ以外に、フッ化物を含んだ穿孔、虫歯などの予防ですね。成人だけでなく、お子さんに対しても予防医学を加味した定期的なメンテナンス、しっかりとしたブラッシングをしてもらうことですね。最近だとお子さんの歯並びを気にされるお母様方もいますが、その中で、ちょっとした癖で頬杖をつくとか偏った寝方をするような習慣や癖によって、歯並びが悪くなるということもあります。そういった悪い習慣、習癖は是正することが大事。
親の歯並びは子供に遺伝する?
親からの遺伝というのは、あるといわれています。ただ、両親の歯並びがきれいだったとしても、必ずしも歯並びがきれいな子になるとは限らないです。歯や顎の大きさや骨格は遺伝しますので、そういった点では遺伝ということもありますが、歯並びに関しては例えば、お父さんの大きな歯が遺伝して、お母さんの小さな顎が遺伝したらそのときは歯がうまく並ばず歯並びが悪くなったりする可能性もある。一概には丸々遺伝するということはないですが、歯の質や骨格というのは遺伝するといわれています。
⻭列矯正は何歳くらいまでに⾏うと効果的か教えてください
矯正治療に関しては、どの時期から始めるかタイミングが重要になってきます。子供の成長に即して成長と共に低年齢のときから矯正を始める場合と、ある程度の経過を見てから中学生や高校生になってから始める場合があります。
骨格的に重度の場合はできるだけ早く、第一期治療といって低学年の間にある程度顎を広げるような成長に配慮した矯正治療というのが必要という風に言われています。矯正は早い段階で、相談に行ったほうがよいということはあるが、最近当院でも40代、50代、60代でも矯正治療をするケースがよくあります。若い人は審美的なことで矯正を行うが、40代、50代の方は健康的な生活を取り戻す為の矯正治療が必要になってきていることが多いです。
一つの例ですが、歯科医師会では80歳で20本の歯を保とうという、8020運動というのを推奨しています。それは、なかなか日本ではまだ達成率は高くはないが、80歳で20本の歯を達成している8020達成者という方もおられます。その方々の7割以上の方が歯並びと噛み合わせがよかったという現実があります。ですから40代、50代の方が健康を取り戻す為に、歯並びやかみ合わせを治療されるというのは間違ってはいないですし、8020を考えると必要な処置になっていますし、最近ではそういう方も多くいます。
親知らずは抜いたほうが良いか教えてください
基本的には抜いたほうがいいというケースが多いです。ほとんどのケースがうまく生えてなかったり、手前の歯を悪くするような原因になっていたり、色々な悪くなる原因の一つにもなり、痛みの原因にもなるので、親知らずというのは基本的には抜いたほうが良いです。ですが、顎の大きな方でしっかりと親しらずまで生えている方は全く抜く必要がないです。ですから、親知らずといえど、抜いたほうがいい、抜かなくてもいい場合があります。そこは歯医者さんに行ってご意見を聞いてみるといいです。
先生ご自身が考える一般人が健康な歯を保つために定期検診の受診はどれくらいでやるべきか
まずメンテナンスには二つあり、治療後のメンテナンスと予防的なメンテナンスがあります。治療後のメンテナンスは少なくとも3,4ヶ月後の期間で年に3~4回のメンテナンスを受けたほうが良いですね。全く歯の疾患がないという方でも少なくとも半年から1年に一回は検診を受けて、メンテナンスをした方が良いです。実際にデータとして、メンテナンスを継続的に長年受けている方と受けていない方で歯が長持ちする率は、はっきりと差は出ています。やはりメンテナンスを受けている方の方が長く歯を健康に保てているという風に思います。メンテナンスは歯のお掃除をするだけではなくて、色々なチェックをします。噛み合わせのチェックは、歯を長持ちさせるためには非常に重要な項目です。歯というのは知らないうちに少し移動していたり、噛み合わせが悪くなっていたりするので定期検診で調整をしてもらうだけでも歯は長く持ちますから、メンテナンスは非常に大事なものです。ぜひとも行っていただいたほうがいいと思います。
インプラント治療のメリット・デメリットを教えてください
メリット
よく言われるのは入れ歯・義歯と比べてよく噛める、装着感が良いです。私が一番思う大きなメリットは今残っている自分の歯を守るということです。インプラントで噛めるということもメリットですが、インプラントを入れることで、残っている自分の歯を長持ちさせることができることですね。
デメリット
特別なデメリットではないが、もともとお持ちの天然の歯に勝るというものではないので、しっかりとそれなりのメンテナンス、お掃除をするという管理が必要になります。具体的に、最近よく耳にするインプラント周囲炎についてお話します。インプラントを入れた後で炎症がおきたり、歯周病のようにインプラントの周囲の歯が溶けるといったことが話題にあがって注目されています。ですから、インプラントといえども過信せず、治療後にしっかりとしたお手入れとメンテナンスが必要になってきます。天然の歯が歯周病や周囲炎になるように、インプラントでも周囲炎になることがありますし、そのパーセンテージが高いからといってそんなに心配されることはないのですが、実際にインプラントをされたあとに周囲炎などのトラブルがあることは聞きますので、そういう意味ではインプラントの治療後にしっかりとメンテナンスを受けることが大事です。過敏に心配されることはないのですが、同じ環境で神様が作った歯より、人間が作ったインプラントが上ということはないので、しっかりと口腔内の環境を整えてあげることが、歯を長持ちさせるために大切だと思います。
インプラント治療する上で気をつけることはありますか?
特に年齢制限もなく、高齢者の方も十分受けられますが、全身的な疾患がある例えば、糖尿病などの数値が高いとか、そういった治療をされていると外科的な処置がうまくいかなかったりするので、全身疾患をお持ちの方はそういった疾患に対応できる医師と歯科医師を選ぶ必要があります。
最先端のインプラント治療にはどういったものがありますか?
ここ最近、5年、10年でインプラント治療も大きく進化しています。一番大きな点は、CTや事前にデジタルコンピュータを駆使して危険領域を察知したり、安全性が高くなったことです。逆に言うと歯科医師の技量だけでなく、そういったシステムを使えば、どの歯科医師が行っても安全なインプラント治療が行えるシステムになってきています。それ以外にインプラント治療をした後に長く保つためのものや、今までは、治療後数ヶ月インプラントが骨とくっつくまで待ってからでないと噛めるようにならなかったのですが、最近では即時加重といってすぐに食事ができるというようなものあります。非常に色々なアイテムが増えてきてますます期待できるようになってきています。
編集部まとめ
歯の健康に関心のある方ならとても気になるお話が聞けました。歯は食べるだけでなく、見た目の印象にも与える影響が大きいものです。その歯のあり方を単に治療という観点だけに留まらず、人生100年と言われるライフスタイルを見越した最新のお話が聞けたのは大変意義深いものでした。編集部では引き続き医療業界のキーマンへのインタビューを通じて、みなさんにとって有益な情報をお届けしていきます。
取材日:2019年6月26日
プロフィール
歯科医師
<略歴>
1991年 朝日⼤学⻭学部 卒業
1995年 タキノ⻭科開設
2006年 医療法人社団裕和会 タキノ⻭科医院 ペリオ・インプラントセンター設⽴
<資格・役職>
朝日大学歯学部 歯周病学講座 客員教授
東京医科歯科大学 歯周病学講座 非常勤講師
大阪大学 歯学研究科 非常勤講師
東京歯科大学 歯周病学講座 元客員講師
日本先進医療研修機関(JIADS)理事長
日本臨床歯周病学会 認定医
OJ(Osseointegration Study Club of Japan)副会長
AAP(American Academy of Periodontology) 会員