医療環境にある子どもと家族の不安や恐怖心を発達段階や個性に応じて軽減し、心理社会的支援をおこなうチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)
アメリカの小児医療の現場には欠かせない存在と言われ、日本でも子どもたちの心身の健康を支える専門職として活躍しています。
そんなCLSにはどうやったらなれるのでしょうか?
CLS協会の会長を務める井上絵未(いのうえ えみ)さんに、CLSにはどうしたらなれるのか、教えていただきました。
CLSの成り立ちはアメリカから
チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)の歴史はアメリカからはじまりました。
1950年代くらいから、病院の中にいる子どもたちに、遊びに加えて教育的な機会や、子どもたちがもっと情報を得られる機会が必要だと提起され、プログラムが発展してきました。
資格となったのが1986年です。
アメリカのAssociation of Child Life Professionals (ACLP)という、民間のCLSのための職能団体が認定をしています。
アメリカでの授業や臨床実習を経て取得ができる
この資格を取得するにはCLSが教えている科目を含めた、ACLPが指定する科目を修めないといけません。
しかし、日本国内にはCLSが教鞭をとっている大学や大学院がなく、必要な科目の履修ができません。今現在はアメリカまたはカナダに留学して資格取得に必要な条件をそろえる必要があります。
ですので、取得を目指す場合はアメリカに渡り履修しないとなりません。
独立した資格なので、医療や保育の資格が必要というわけではありません。
専攻分野は問わず大学を卒業していること、大学または大学院でCLSが教える科目も含めた指定科目を履修すること、600時間以上の臨床実習が資格受験に必要な条件です。
アメリカやカナダのいくつかの大学や大学院の教育学部や児童発達学部などの中にCLS取得のための専攻コースが設けられています。
指定科目の履修後、インターン(臨床実習)が600時間以上求められます。
大学や大学院の1セメスターかけて実習を行うので3~4か月ほどかけて行います。実際にCLSが勤務する医療の現場に入り、見学から始まり、自分1人で対応するところまでを行います。
これを終えてからようやく資格取得の為の試験となります。
取得してからも5年ごとに資格の更新があり、その間の自己研鑽の記録の提出が求められるので管理が厳しい資格といえます。
英語で支援を提供する難しさ
私が初めてCLSを知ったのは、アメリカの小児病院の新聞記事でした。当時私は医療ソーシャルワーカーになるために社会福祉士の資格が取れる大学に通っていました。
自分が本当にCLSに向いているのか、留学してやっていけるのか不安だらけでしたが、まずは実際に学んでみないと分からないと思って留学をしました。
実際になるまでに大変だったことは、インターンシップです。講義では予習・復習で英語を補うことはできますが、実際の患者さんや医療従事者とのやり取りでは、自分が英語を母国語としないという事情も相手は知らないので、その場で対応していくのは本当に大変でした。私は患者さんを支援する立場の実習生であって、相手に私の語学の問題で負担をかけてはならいという自分の気持ちも大きかったと思います。
日本全国32施設で子どもの心身を支え、医療者との信頼関係をつなぐべく活躍中
日本では1998年にアメリカで資格をとられた方が活動を始めて、今は32施設47名が活動しています。
アメリカに行かないと取れないというハードルの高い資格ですが、取得する方も増え、小児科など医療の現場で医師や看護師と共に活躍をしています。
時々看護師と間違われることもありますが、診察をしたり、身体に処置をしたりということはしません。
CLSは、子どもたちが嫌なことは直接しないけれど、子どもたちが嫌なことを一緒に乗り越えていくパートナーというイメージです。
医師、看護師そしてCLSも含めた医療者が、子どもにとって嫌なことをするだけの存在ではなく、一緒に病気やけがと向き合っていく仲間である、という関係性を築いていくことを目指しています。
医科歯科ドットコム取材
取材日:2020年2月19日
プロフィール
済生会横浜市東部病院こどもセンター チャイルド・ライフ・スペシャリスト
米国Association for Child Life Professionals(チャイルド・ライフ協会)認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト
社会福祉士
–〈経歴〉–
2002年 立教大学コミュニティ福祉学部卒業
2003年 社会福祉士取得
2007年 米国カリフォルニア州University of La Verne(ラバーン大学)大学院教育学部チャイルド・ライフ専攻修士課程修了(Master of Science in Child Life)後、チャイルド・ライフ・スペシャリスト認定を受ける。
大学院在学中、米国カリフォルニア州CHOC Children’s(チョック・チルドレンズ:チョックこども病院)にて720時間(およそ半年)のチャイルド・ライフの臨床実習を経験。在学中、病院や病児キャンプでのボランティア活動に参加。
2007年7月より現職。済生会横浜市東部病院は、全国でも珍しい小児肝臓消化器科を有しており肝臓消化器慢性疾患の子どもたちへの心理社会的サポートを中心に活動を行っている。また、がん診療連携拠点病院・救急病院であり多部署・多職種との連携により子育て世代のがん患者、救命救急患者の子どものサポートに力を入れている。
また、慢性疾患、小児がん等の患児と家族(きょうだいを含む)が、病気を気にすることなく、安心して子どもらしく遊ぶことを目指しサマーキャンプやクリスマス会を行っているボランティア団体Family Agency(ファミリー・エージェンシー)のボランティアに学生時代から参加し、現在は理事をつとめている。
2019年 チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会会長に就任。