【子どもへの伝え方】お母さんが病気で入院、そのとき子どもが思うこと

 
突然事故に遭ったり、病気になったりというのは予想がつかないことです。
 
もし、子どもが入院しなければならない、また親自身が入院しなければならなくなった場合、どんな伝え方をすれば子どもを不安にさせずに伝えられるでしょうか。
 
医療をはじめとするストレス状況下にある子どもと家族が危機的な状況や喪失体験と向き合う過程を支援するチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)協会の会長を務める井上 絵未(いのうえ えみ)氏からお話を伺いました。
 

 

子どもが入院するときに伝えるべきポイントは2つ

 

①なぜ家では治せないのかをしっかり伝える

子どもは成長過程において、風邪をひいた経験が少なからずあると思います。その経験から、ただ病気を治すだけなのになんで家族と離れて、痛い思いをして入院しなければいけないのか、いつもと同じように家ですごせばいいじゃないかと思うお子さんも多くいます。
 
ですので、なぜ入院しなければならないのかを教えてあげることが重要です。
 
たとえば、「この病気はお口から飲むお薬ではやっつけられない。点滴っていう身体にお薬を入れる道具がないと治せない。おうちでそれはできないからお泊りして治してもらうんだよ。」と伝えます。
 
家でできること、できないことを伝え、子どもにどうして入院が必要なのかをしっかりお話してください。
 
子どもは自己中心的思考が強いため、物事の原因は自分にあると思いがちです。
 
たとえば、入院の理由を「自分が悪い子だから」「お母さんの言うことを聞かなかったから」「お薬を上手に飲めなかったから」などと考えてしまうので、子どもが自分自身を責めないように伝えてあげることが大切です。

 

②いつまで、どうなったら、など目安を伝える

元気になるために必要なこと、おうちに帰るために必要なことを具体的に教えてあげましょう。
 
私が関わる慢性疾患のお子さんには、お子さんにも血液検査などの結果を共有して様々な目安を伝えています。
 
たとえば、「ここの数字が○○くらいになったらプレイルームに遊びに行けるよ。△△になったら、おうちに帰る相談しようね。」というように医師とも相談しながら伝えるようにしています。
 
子どもも分かる具体的な目標が共有できることで、子どもも治療に対して前向きに取り組みやすくなります。

 

家族やお友達が入院する場合はどう伝えればよいか

 

子どもの生活リズムがなるべく変化しないように伝える

ーー親やきょうだいが病気になったら…
 
子ども自身が入院する場合と同様に、親やきょうだいがけがや病気になってしまうと、その原因が自分にあると思ってしまう場合があります。だれにでも起こりうる出来事であり、だれのせいでもないことを伝えます。
 
親御さんが入院をすると聞くと、「明日からのご飯はだれが作ってくれるの」と親御さんの心配より先に自分の心配をするお子さんも多くいます。これもお子さんの持つ自己中心的思考の影響でごく普通のことです。
 
ですから、家族が入院する場合には、子どもの生活を保障する体制があることを明確にしてあげることが大切です。家族が入院することで、子どもの生活に変化が生じる場合も多くあると思います。その際も、なるべく子どもの生活リズムを変えないような配慮をすることが子どもの安心につながります。
 
ーーお友達が病気になったら…
 
病気になったお友達、その親がして欲しいことをする、してほしくないことはしないということが大事です。特にそのお友達からこうしてほしいということがなければ、特別何もしなくていいと思います。
 
病院にいると、嫌でも自分は病気なんだと感じてしまいます。せめて学校など病院外では病気のことは忘れていつもの自分でいたいと思うお子さんも多いです。大人が病気などになったときに職場で過度に気を遣われても嫌だと思うことと同様です。いつもと同じように接していただきたいと思います。

 

情報をオープンに!しっかりと子どもと情報を共有することが重要

家族が入院するとき、大人同士は状況を話し合いますが、生活に支障が出るかもしれない肝心な子ども本人には状況が共有されていない場合があります。
 
お子さんにも家族に起きている出来事を伝えると同時に、どのような対応を考えているのかを伝えることが大切です。
 
子どもの生活に関しては、たとえば、「保育園のお迎えはじいじが行く」、「習い事は〇〇ちゃんのお母さんが一緒に迎えに行ってくれるから大丈夫だよ」などと子どもにも具体的な対応策を共有してください。
 
親御さん自身が患者さんという立場になると、病気のことを話した時にお子さんに質問攻めにされるのが心配だったり、お子さんに余計な心配をさせたくないから伝えられないという方もいらっしゃいます。
 
ですが、わかっている範囲で伝えられる範囲でも構わないので病気や状況について伝えることが、子どもたちには安心感につながります。もし、どう答えていいのかわからないことを聞かれたら、正直にわからないと伝えててください。
 
そこで何も情報を与えられないと子どもたちは、事実とは異なる想像を膨らませてしまう可能性があります。親御さんから話してもらえないことを、子どもから聞くのは非常に勇気のいることです。「ママは最近元気がないけど、そんなことを聞いてもいいのかな」と不安を抱え込んでしまう場合もあります。
 
親御さんから情報をオープンに発信することで、子どもたちからも質問がしやすくなり、一緒に不安を解消していくことができます。

 
取材日:2020年2月19日
 

プロフィール

井上 絵未(いのうえ えみ)氏
 
済生会横浜市東部病院こどもセンター チャイルド・ライフ・スペシャリスト
米国Association for Child Life Professionals(チャイルド・ライフ協会)認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト
社会福祉士
 
〈経歴〉
2002年 立教大学コミュニティ福祉学部卒業
2003年 社会福祉士取得
2007年 米国カリフォルニア州ラバーン大学大学院教育学部チャイルド・ライフ専攻修士課程修了後、チャイルド・ライフ・スペシャリスト認定を受ける。
 
 
大学院在学中、米国カリフォルニア州CHOC Children’s(チョックこども病院)にて720時間(およそ半年)のチャイルド・ライフの臨床実習を経験。在学中、病院や病児キャンプでのボランティア活動に参加。
 
2007年7月より現職。済生会横浜市東部病院は、全国でも珍しい小児肝臓消化器科を有しており肝臓消化器慢性疾患の子どもたちへの心理社会的サポートを中心に活動を行っている。また、がん診療連携拠点病院・救急病院であり多部署・多職種との連携により子育て世代のがん患者、救命救急患者の子どものサポートに力を入れている。
 
2019年 チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会会長に就任。
チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会