病院に行くときに、不安や緊張を感じてしまう方は意外と多いのではないでしょうか?
そして大人よりも子供のほうが、病院が怖いところのように感じてしまい、ネガティブな印象が強いのかもしれません。
今回は、子どもが医療に対して感じている不安や負担と向き合う、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)というプロフェッショナルをご紹介します。
CLS協会の会長を務める井上 絵未(いのうえ えみ)さんに、医療に対して「子どもが感じている不安」と「子供の主体性」についてお話を伺っていきます。
医療に対して「子どもと家族が感じる不安」を緩和し、「主体的に治療と向き合う」支援をする専門職
チャイルドライフスペシャリストとは?
チャイルドライフスペシャリストとは、医療に対する子どもと家族の不安や恐怖心をその子どもの発達段階や個性に応じて緩和し、主体的に治療と向き合えるよう支援する心理社会的専門職種です。
資格としては、アメリカにあるAssociation for Child Life Professionalsによる認定資格であり、医療機関で働いています。
大人が想像するより子どもの不安は大きい
大人の場合は、入院をすることになって不安を覚えたとしても、病気や病院について自分で調べてみるなどして「分からない」ということを解消し、その不安を自分でやわらげることができます。
子どもたちは自分が不安に思ってドキドキしたときに、どうやって対処をしていいのか、分かりません。
何をされるのか、どこに行くのかなど分からないことが不安でも、その調べ方が分からなかったり、自分で調べていいんだということを思いつかなかったりします。
知らない場所、知らない人に会うこともハードルが高いですし、自分が何をされるのかも理解できていない子どもが医療機関を受診するということは、大人が考える以上に子どもにとっては不安なことです。
混乱しながら病院に来たであろう子どもたちに対して、少しでも「怖い」という思いではなく、そのお子さんらしく医療に向き合うにはどうしたらいいか、ということをお手伝いするのがチャイルド・ライフ・スペシャリストという私たちの役割です。
家族への支援もCLSの重要な役割
もう一方で、親御さんに対しての働きかけもします。
お子さんのことだと自分のこと以上に不安になってしまうという親御さんに対して、少しでも親御さんたちが家族らしさを病院の中で発揮していただける支援も行っています。
子どもと家族の恐怖心を軽減して、少しでも自分たちの力で乗り越えられた、という感覚をもてるように、主体的に向き合い、対処してもらえるような支援をしています。
発達に必要な「子どもの主体性」は医療の中では発揮しづらい
発達段階によって課題は様々ですが、「主体性」はどの段階でもとても大事なものと考えられています。
自分の視点を中心として物事を捉える自己中心的思考は幼児期に顕著にみられる発達の特徴であり、すべてのお子さんが通る道です。
だからこそ、お子さんが自分で考え、行動する主体性が尊重される環境が発達にとって非常に重要となります。
病院では治療を「受ける」というように、人に何かをしてもらう、されることが多くなります。特に長期に渡ると子どもにとって受け身になることが当たり前になってしまいがちです。
すると発達に必要な「自分で挑む」ということや「自分で成し遂げる」という経験がどんどん減ってしまいます。
これは子どもの心理社会的な発達に影響を及ぼす可能性があるといわれています。
発達課題としてなすべきところが満たされないと、その結果、大人になった時に自信がなかなか持てなかったり、自分を好きだと思えないというように、自己肯定感が育ちにくくなってしまうことがあります。
CLSは、このような医療の中でお子さんに生じる可能性のある弊害を防ぐことを目的として作られた専門職です。
だからCLSは子どもの医療の現場に必要とされる
子どもの医療の現場で、直接診察や処置などの医療行為を行うわけではありませんが、子どもたちの成長のために必要な役割を担っています。
遊びなど子どもの主体性を保障する機会を提供することで、不安の緩和をしながら、自分の力で治療を乗り越えたと感じられるよう支援をしています。
取材日:2020年2月19日
プロフィール
済生会横浜市東部病院こどもセンター チャイルド・ライフ・スペシャリスト
米国Association for Child Life Professionals(チャイルド・ライフ協会)認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト
社会福祉士
〈経歴〉
2002年 立教大学コミュニティ福祉学部卒業
2003年 社会福祉士取得
2007年 米国カリフォルニア州ラバーン大学大学院教育学部チャイルド・ライフ専攻修士課程修了後、チャイルド・ライフ・スペシャリスト認定を受ける。
大学院在学中、米国カリフォルニア州CHOC Children’s(チョックこども病院)にて720時間(およそ半年)のチャイルド・ライフの臨床実習を経験。在学中、病院や病児キャンプでのボランティア活動に参加。
2007年7月より現職。済生会横浜市東部病院は、全国でも珍しい小児肝臓消化器科を有しており肝臓消化器慢性疾患の子どもたちへの心理社会的サポートを中心に活動を行っている。また、がん診療連携拠点病院・救急病院であり多部署・多職種との連携により子育て世代のがん患者、救命救急患者の子どものサポートに力を入れている。
2019年 チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会会長に就任。
チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会