【医師が解説】「がんは不治の病ではない」これからはがんを予防していく時代

 
「がんを治す時代から予防する時代へ」2人に1人ががんになると言われていますが、がんを予防できればその数字は変わっていくはずです。2020年2月15日(土)、江戸川病院主催の講演会が開かれました。
 
本講演では、江戸川病院腫瘍血液内科副部長の明星 智洋(みょうじょう ともひろ)医師が登壇し、「正しいがん検診の受け方」について解説します。本パートでは、がんの芽を摘むことについて取り上げています。
 
明星医師は、がん診療の最前線で現役の医師として活躍しており、日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医、そして日本血液学会認定 血液専門医でもあります。
 

効率的な正しいがん検診の受け方について、明星医師が解説

明星 智洋 医師:皆様、こんにちは。ご来場いただきまして誠にありがとうございます。明星でございます。
 
本講演では、「正しいがん検診の受け方」について皆様にお伝えしたいと思います。江戸川区、江東区、葛飾区などから皆様いらっしゃっていると思いますが、それぞれ区の検診がありますね。
 
しかし、それはがん検診とは違います。眼底の検査や握力などを測ったり色々ありますが、それでがんが分かるわけではないです。効率的ながん検診の受け方についてお話させていただきます。

7割の日本人が、自分は何かしらの病気かも知れないと思っている

まず、この会場の中で「自分は健康だ!」と自信を持っている方はいらっしゃいますか?ざっと、5割から6割くらいの方が手をあげられていて、ご自分は健康だと思っているようですね。
 
この講演にお越しいただいているということは、きっと病気になりたくないから、何か情報があったらいいなと思って、いらっしゃっていると思います。
 
この会場にいらしている方は、かなり健康への意識が高いと思いますが、経済協力開発機構(OECD)が2013年に公開した調査では、「自分を健康だと思う人の割合」が、日本はたった3割でした。
 
(スクリーンの資料では、アメリカ約9割、スペイン約8割、イタリア約7割)欧米では、7~9割の人が「自分は健康だ!」と過信しているようです。日本人は、「自分は病気かも知れない」と思っている人が少し多いのかも知れません。
 

がんはもう不治の病ではない!3人に2人は治り生きていける

さて、皆様が注目する「健康情報」の中でも、高血圧や脳梗塞、糖尿病など、色々な病気がありますが、本講演では「がん」に特化してお話をさせていただこうと思います。
 
がんと聞くと、何となく「不治の病」とか、「もう人生が終わってしまう」などと考えてしまう方もいらっしゃるかも知れません。「373,334人」この数字が何か分かりますか?
 
これは、日本で1年間(資料は、2017年当時)に、がんで亡くなった患者様の数です。
 
では、「995,132人」この数字は何でしょう?先ほどの数字の約3倍ですね。これは、日本で1年間(資料は、2016年当時)に、がんと診断された患者様の数です。
 
つまり、約1,000,000人ががんと診断されるが、亡くなる方はその1/3の人、裏を返せば2/3の人は、がんと診断されても生きていくことができるということです。
 
この数字から何が読み取れるかというと、「がんは不治の病ではない」ということです。がんと診断されたとしても、3人に2人は治り、生きていくことができるのです。統計学的にそのように出ています。

「がんを治す時代から予防する時代へ」究極を目指していく

もちろん、がんは不治の病ではないと言えるのは、世界中で抗がん剤の開発や手術技術、放射線技術などが進化進歩しているからです。
 
でも我々は、さらにその先に行きたいと思います。「がんを治す時代から予防する時代へ」これがたぶん究極です。
 
もし、皆様がすべてのがんの予防を実践してがんにならなかったら、腫瘍内科医である私の職業はなくなってしまうかもしれませんが、我々が目指している究極はがんを予防することです。
 
もちろん、がんにならないということが一番重要ではあります。さらにもう一つは、がんになる前の段階で発見して、芽を摘んであげる。これもひとつの予防であると思います。
 

 
資料:国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」(Cancer Information Services, National Cancer Center, Japan)
※最新のデータはこちら

がん患者数は年々増加しているが、胃がんによる死亡者数は減少傾向にある

日本だけでなく世界でも、がん患者数は年々増えています。今(2020年2月現在)、2人に1人はがんと診断される時代になっています。
 
男性で一番多いがんは、肺がんです。たばこの影響もあると思います。女性では、乳がんも多いですが、一番多いのは大腸がん(結腸がんと直腸がんを合わせた場合)です。
 
でも中には、年々減っているがんもあります。それは胃がんです。実は胃がんは、死亡数が男女ともに年々減少傾向が見られます。
 
なぜかというと、「ヘリコバクターピロリ菌」という菌が、胃がんの原因の大半を占めているということが10数年前に判明しています。この研究は、ノーベル賞を取っています。
 

50~80%の人がピロリ菌に感染している

ピロリ菌がいるかどうかは、胃カメラや血液検査でも分かりますし、風船を膨らませて呼気を検査することでも分かります。
 
ピロリ菌がいたら、1週間お薬を飲むだけで、8割の人が除菌することができます。除菌さえしてあげれば、一気に胃がんの発症率を下げることができます。
 
皆様の中で、もし、今まで一度もピロリ菌の検査をしたことがないという方がいたら、ぜひピロリ菌の検査を受けていただけたらと思います。
 
実は、年齢が上がると共にピロリ菌の感染率は高くなっています。だいたい、50~80%の人がピロリ菌に感染していると言われています。
 
なので、これは他人事ではないのです。先ほど申し上げた、胃カメラや血液検査、呼気検査のいずれかで感染の有無を調べることができます。そして、陽性であれば1週間お薬を飲んでください。
 
決して100%が予防できるわけではありませんが、胃の中のピロリ菌を早期に発見して除菌すれば、明らかに胃がん発症率を下げることができます。

医科歯科ドットコム編集部コメント

この日、小岩アーバンプラザの会場には、300人近い聴講者で大盛況でした。誰もが、できれば健康で長生きしたいと思うようで、健康情報への関心の高さが伺えます。
 
がんを予防できるのであれば、ぜひ予防に努めたいですね。胃がんによる死亡数の減少は、そのようながんの芽を摘む取り組みの結果なのでしょう。
 

<講演概要>
テーマ:「正しいがん検診の受け方」
開催日:2020年2月15日(土)
主催:江戸川病院地域連携室
後援:江戸川区ほか
 

講師プロフィール

江戸川病院
腫瘍血液内科副部長
明星 智洋(みょうじょう ともひろ)医師
 
<資格>
日本内科学会認定内科認定医
日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、指導医
日本血液学会認定血液専門医、指導医
日本化学療法学会認定抗菌化学療法認定医、指導医
日本癌治療学会認定がん治療認定医
インフェクションコントロールドクター(ICD)
Total nutritional therapy修了
 
<略歴>
2001/3 熊本大学医学部卒業
2001/4 岡山大学医学部附属病院腎・免疫・内分泌・代謝内科
2001/10 国家公務員共済組合連合会 呉共済病院 内科
2003/4 国家公務員共済組合連合会 呉共済病院 血液内科医員
2004/4 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 血液科
2005/4 癌研究会有明病院 化学療法科・血液腫瘍科
2009/4 江戸川病院 腫瘍血液内科
2009/10 同医長
2012/4 同副部長
2016/1 東京がん免疫治療センター長(兼任)
2016/10 Hyper medical creator就任
2018/2 プレシジョンメディスンセンター長(兼任)
 
<専門分野>
がん薬物療法(抗がん剤治療)血液疾患(良性・悪性含む)
感染症管理、免疫療法日々、市中病院にてがん診療の最前線で抗がん剤中心の治療をおこなっている。
Hyper medical creatorとして、上場企業やベンチャー企業と、医療現場をつなげることをライフワークとしており、ユーグレナ、資生堂などとも連携している。
オンライン診療や栄養、人工知能、職場の環境改善など幅広い領域で、橋渡しをおこなっている。
その傍ら、趣味として梅酒が健康にどう影響するのか、どの料理と合うのかなど探究し、一般社団法人梅酒研究会設立、全国での梅酒まつりや品評会を主催している。
 
<出演・監修>
朝日放送 たけしの『みんなの家庭の医学』出演
映画『ゆめはるか』医療監修、出演
映画『サクラ花』医療監修
土曜ワイド劇場『切り裂きジャックの告白』医療監修
映画『うまれる ずっといっしょ。』アドバイザリーボード
その他、新聞などのメディアへの掲載多数
著書『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)
 
<その他>
株式会社オリィ研究所 顧問
株式会社マイロプス 顧問
一般社団法人梅酒研究会 代表理事
MRT株式会社 取締役