【現役医師に聞く】誰にでも起こりうる急性白血病も、今では延命ではなく治すことを目指す!

スポーツ選手や芸能人の発症で度々注目される白血病。
不治の病のイメージを持ちがちな白血病の実態と治療に迫ります。
白血病は特別なものではなく誰にでも起こりうるものです。
治療には副作用を伴いますが、薬が効けば治る可能性もあるようです。
江戸川病院の腫瘍血液内科副部長である明星智洋(みょうじょうともひろ)医師に、急性白血病と慢性白血病の違い、そして急性白血病治療の副作用について教えていただきます。

 

「急性」か「慢性」かで大きく分かれる白血病

白血病は、「急性」と「慢性」で本当に天と地ほど予後が違います。
「慢性白血病」に関しては、年に1回定期的な健診を受け、採血してさえすれば必ず発見できるので、恐れる必要はないと思います。
しかし「急性白血病」に関しては、毎月採血をしていても突然なるものですから、なかなかそれを予知したり予防することが難しい病気です。

 

「急性白血病」の治療の副作用

「急性白血病」に対して行う抗がん剤治療には必ず副作用があり、皆さんが想像しているように髪の毛は抜けてしまいます。
吐き気に関しては、吐き気止めの開発が進んでいるため少々食欲が落ちる程度で済むことが多いです。
映画などでよくあるような、吐き続けるということはありません。
我々の病院でも白血病の治療をする場合は、まず飲み薬の吐き気止めを飲み、更に点滴の吐き気止めの処置を行い、それから抗がん剤治療を始めています。
多くの方は吐かずに済み、食欲は多少落ちる程度です。
 
その他に心不全やアレルギー、下痢や口内炎などの副作用もありますが、中でも一番怖いのは「白血球が下がる」という副作用です。
骨髄の中にある悪い細胞をたたいている訳ですから、当然白血球も赤血球も血小板も下がってしまいます。
これを骨髄抑制(こつずいよくせい)と言いますが、これが治療する際に一番気を付けなくてはいけない副作用です。
赤血球や血小板が減った時には輸血という方法を使えば、足りないものを補充することができますが、白血球には輸血がありません。
そのため、白血球減少時には免疫力の低下により、感染症から無防備な状況(免疫力の低下)となる為、空中に浮遊している菌やウイルスを吸入することでも肺炎になってしまう可能性や、手のひらや口の中、腸内にある菌が悪さをする可能性が高くなります。
そのような危険を防ぐために「急性白血病」の治療では、無菌室(クリーンルーム)というところで治療を行うのが一般的です。
「慢性白血病」の場合は入院することはなく外来通院での治療になりますが、「急性白血病」の場合は入院治療となります。

 

身近な人が白血病になってしまった時に私たちにできることとは?

哲学や倫理的な話にもなるかと思います。僕もどう声をかければ良いか、いつも迷いながら診療しております。
しかし、白血病と診断されたらやることは決まっていて、たくさん選択肢があるわけではありません。
 
例えば「急性白血病」と診断されたら明日から決まった抗がん剤治療をやるしかありません。
やるかやらないか、そこはもう迷いませんし、治療が上手くいくかどうか、それはその抗がん剤が効くかどうかということで、やってみなければわかりません。
従って、我々医療従事者や家族というのは、そこで治療成績に影響を及ぼす何かをできるわけではないのです。
ただ、先にお話ししたように、きつい副作用が待っています。
そして道のりも長いです。治療が上手くいっているにも関わらず、気持ちが負けて途中で治療中断するなんてことがないように、精神的なサポートをしてあげられるのが、家族や友人、我々医療従事者だと思います。
周りの人たちができることは、精神的なサポートをできる限りすることです。治療は無菌室で取り組み、1人で孤独です。
しかし、1人で治療している訳ではないと、みんなで頑張って戦っているというメッセージを常に発信し続けることかなと思います。

 

先生がお勤めの病院が心がけているアニマルセラピー

江戸川病院ではアニマルセラピーというものを考えています。院内にはエミューやフラミンゴ、ゾウガメやウーパールーパー、白蛇など爬虫類もたくさんいます。
僕がこの病院に赴任してきて無菌室を作る際に、当時の院長先生が無菌室の周りを水槽でぐるりと囲み、周りを魚が泳ぐ設えにしたら良いのではという話もありました。
無菌室として難しいので実現はしませんでしたが。無菌室は生花も持って入れませんし、食べ物も熱を通したものしか持って入れません。
そこで、お見舞いに来ているご家族やご友人が少しでも気持ちを和らげていただけるように、江戸川病院はアニマルセラピーを取り入れたり、壁紙を派手にしてみたり、少しひょうきんな絵を飾ってみたりと工夫しています。

 

白血病はがんの中でも抗がん剤がよく効く病

白血病やがんと聞くと、なんとなく「不治の病」「もう終った」と思う方もいるかも知れないですが、今はきちんと治療したら治る時代になっています。
他のがんの中には、抗がん剤治療が延命治療にしかならない、なかなか治らないものありますが、白血病というのは抗がん剤がとてもよく効きます。
もし「白血病だ。」とご自身やご家族、ご友人が言われたとしても、きつい治療は確かにありますが、その先に延命治療ではなく治るという可能性も少なくありませんので、あきらめる必要は全くありません。
 
医療は日進月歩です。
先ほどお話したような「急性リンパ性白血病」に対する新薬など、8割以上は治ります。
これが更に改良されたら、100%治る薬だって出てくる可能性があります。
ですから、決して悲観的になる必要はなく、今の日本の医療、そして世界の医療を信じて戦ってもらえたらなと思います。

 

医科歯科ドットコム編集部コメント

明星先生ありがとうございました。
白血病という難しい話題でしたが、病気への理解と今後の医療の展望に期待が持てるお話をいただきました。

 
取材日:2019年10月16日
 

プロフィール

江戸川病院
腫瘍血液内科副部長
明星 智洋 医師
 
<資格>
日本内科学会認定内科認定医
日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、指導医
日本血液学会認定血液専門医、指導医
日本化学療法学会認定抗菌化学療法認定医、指導医
日本癌治療学会認定がん治療認定医
インフェクションコントロールドクター(ICD)
Total nutritional therapy修了
 
<略歴>
2001/3 熊本大学医学部卒業
2001/4 岡山大学医学部附属病院腎・免疫・内分泌・代謝内科
2001/10 国家公務員共済組合連合会 呉共済病院 内科
2003/4 国家公務員共済組合連合会 呉共済病院 血液内科医員
2004/4 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 血液科
2005/4 癌研究会有明病院 化学療法科・血液腫瘍科
2009/4 江戸川病院 腫瘍血液内科
2009/10 同医長
2012/4 同副部長
2016/1 東京がん免疫治療センター長(兼任)
2016/10 Hyper medical creator就任
2018/2 プレシジョンメディスンセンター長(兼任)
 
<専門分野>
がん薬物療法(抗がん剤治療) 血液疾患(良性・悪性含む)
感染症管理、免疫療法日々、市中病院にてがん診療の最前線で抗がん剤中心の治療をおこなっている。
Hyper medical creatorとして、上場企業やベンチャー企業と、医療現場をつなげることをライフワークとしており、ユーグレナ、資生堂などとも連携している。
オンライン診療や栄養、人工知能、職場の環境改善など幅広い領域で、橋渡しをおこなっている。
その傍ら、趣味として梅酒が健康にどう影響するのか、どの料理と合うのかなど探究し、一般社団法人梅酒研究会設立、全国での梅酒まつりや品評会を主催している。
 
<出演・監修>
朝日放送 たけしの『みんなの家庭の医学』出演
映画『ゆめはるか』医療監修、出演
映画『サクラ花』医療監修
土曜ワイド劇場『切り裂きジャックの告白』医療監修
映画『うまれる ずっといっしょ。』アドバイザリーボード
その他、新聞などのメディアへの掲載多数
著書『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)
 
<その他>
株式会社オリィ研究所 顧問
株式会社マイロプス 顧問
一般社団法人梅酒研究会 代表理事
MRT株式会社 取締役