【救急医に聞く】ハイペースにお酒を飲み記憶や意識を失ってしまう急性アルコール中毒の症状とは?

 
気分が上がって、ついつい飲みすぎていませんか?「昨日の記憶がない!」というような状態は、かなり飲みすぎている状態かも知れません。救命救急の現場で活躍されていた小川智也(おがわともなり)医師に、急性アルコール中毒の症状についてお話を伺いました。
 

脳の中のアルコール濃度によって、身体に起きる症状が異なります

――救急搬送されるような「急性アルコール中毒」とは、どのような症状ですか?
 
急性アルコール中毒は、意識がない方や呼吸状態が悪い方が救急搬送されてきます。そうではない方は救急外来を少し酔っているぐらいの状態で受診されることが多いです。
 
診断については、酩酊状態(めいていじょうたい)に伴う状態・症状が病的酩酊(びょうてきめいてい)のうちどの程度に相当するかで、アルコール中毒を診断します。
 
例えばアルコールを飲むと消化管から吸収されて心臓を通って脳に到達します。アルコールを飲むと体のアルコール濃度が高くなり、ある程度高くなってくると脳の中でもアルコール濃度が高くなります。その濃度により症状が変わってくるのです。
 
例えば、スーパーなどで売られているお豆腐をイメージしてみてください。ケースの中にお豆腐が入っていて水に浮かんでいる状態です。
 
脳(豆腐)も同じような形で頭がい骨(ケース)の中の脳せきずい液(水)に浮かんでいます。アルコールを飲むと脳せきずい液のアルコール濃度が高くなり、結果的に脳表面から、脳の奥底まで到達します。
 
アルコール濃度が高まると、まず脳せきずい液と広範囲に接している脳の表面が麻痺します。脳の表面が麻痺すると、自制心や感情をコントロールする場所が麻痺し、感情の抑制が外れて機嫌が良くなったり、ハイテンションになったりします。
 
病院に来た時にハイテンションだったりすると急性アルコール中毒の状態ではありますが、アルコール濃度はそれほど高くない状態と判断します。
 
もう少し酩酊状態(めいていじょうたい)が進み、小脳(体のバランス感覚をつかさどる部位)に麻痺が広がると、バランス感覚が失われ、歩行が不安定となります(俗に言う「千鳥足」状態)。
 
さらにアルコール血中濃度が高まると、脳の深部が麻痺しはじめ、記憶が不鮮明になったり支離滅裂なことを話したり、意識が混濁しはじめます。
 
このように、患者さんの症状や状態を確認することで、急性アルコール中毒の程度が大まかに把握できるのです。
 

意識がない・呼吸がコントロールできない状態は、かなり深刻な状況

さらに深刻な状況は、呼吸が不安定になり呼吸が止まっている状態です。脳のさらに奥の中心部には、生命を維持するために必要な呼吸をコントロールする司令塔があります。
 
呼吸が不安定ということは、この生命維持に関わる脳の中心部までアルコールが浸っているということですから、非常に深刻な状況になっているのです。
 
病院に救急搬送されてきた状態で、意識がない状態や呼吸不安定だと、かなり脳の深部までアルコールがいきわたっており、体内のアルコール濃度も非常に高い状態と推測されます。
 
救急搬送された際にはどういった症状なのかを確認後、対応手順があるのでそれを一つひとつ治療していきます。
 

医科歯科ドットコム編集部コメント:記憶がなくなるまでお酒を飲む行為はやめましょう

今回は急性アルコール中毒の症状について小川智也医師に教えていただきました。ハイペースにお酒を飲み、記憶や意識を失ってしまう飲み方は大変危険な行為です。
 
お水を適宜飲み、上手にアルコール濃度をコントロールすることが大切です。普段飲み慣れない人こそ、無理をせずゆっくり自分のペースでお酒を楽しみましょう。
 
取材日:2019年12月13日
 

プロフィール

小川智也(おがわともなり)
救急科専門医 MBA

2002年 山田赤十字病院勤務
2004年 大阪府立千里病院救急センター勤務
2005年 国立病院機構大阪医療センター救命救急センター勤務その後も、プライマリ・ケアから高度救命救急医療に至るまでの知識と技能を幅広く習得。

国内トップクラスの症例を誇る医療機関で救急医療を実践する傍ら、英国MIMMS(Major Incident Medical Management and Support)資格を取得し、救命治療・集中治療に限らず、ドクターカーで災害現場に出向き医療を行う等、救急災害医療にも従事。

2012年 英国国立ウェールズ大学院MBA取得
医師としての専門的視点とMBAとしての経営的観点を交えた広い視野で国内の医療システムの問題点解決に向けた取組みを行うべく、現職のMRT株式会社に入社。医療課題の解決を事業に活かすべく医師の視点を活かし、ITを活用した医療サービスを提供。

2019年4月 MRT株式会社代表取締役社長に就任
2019年11月 ソフトバンク株式会社とトヨタ自動車株式会社などの共同出資会社である、MONET Technologies株式会社が設立した「MONETコンソーシアム」に参画

自動運転とMaaS(Mobility as a Service)を融合させたAutono-MaaS事業へ、他の参画企業と連携しながら「移動における社会課題の解決や新たな価値創造」という目的において医療分野での社会的課題を解決する新たなサービスの創造を目指す。