なんだか疲れやすい、どうもやる気がでない状態というのは、一般的な身体の不調と思われることが多いでしょう。
ですが、疲労感が慢性的にあって常にだるい、身体の浮腫みも気になるときは、もしかしたら甲状腺の病気である「橋本病」かもしれません。
今回は、特に女性に多いと言われる橋本病について、内分泌内科医師であり、甲状腺の病気を専門に診ている小菅 由果(こすが ゆか)医師に、お話を伺いました。
橋本病ってどんな病気なの?
橋本病というのは、甲状腺から出るホルモンの量が少なくなってしまうという病気になります。
甲状腺のホルモンは脳の活性化のもとにもなっていますので、甲状腺のホルモンが少なくなることによって物忘れが多くなったり、眠気がでて日中ぼーっとしてしまう、といった症状がでることがありますので、ときどき高齢者などでは認知症と間違えられてしまう症状にもつながってきます。
一番多い自覚症状は、疲れやすい、だるい、または便秘など、自覚症状がなかったとしても健康診断でコレステロールの値が高いと言われて検査したところ、甲状腺のホルモンが下がっていたことが原因だったという方も多くいます。
コレステロール値が高くなることもある
また身体の全身の新陳代謝が悪くなってしまい、身体全体にむくみがでたり、体温が低い状態が続く、という症状がでることがあります。
それが臓器に影響しますと、胃腸の動きが悪くなって便秘気味になることがあります。肝臓に影響する場合、肝臓というのはコレステロールの代謝をしている場所でもあるので、肝臓の機能が落ちるとコレステロールの代謝が悪くなり、採血でコレステロールの値が高くなってしまうこともあります。
自覚症状があるのに、検査を受けるまで気付かないことがある
橋本病の場合には、だるい、むくむ、疲れる、といった特に病気ではなくても、普段から皆さんが感じるような症状が多くありますので、この症状があれば必ず受診したほうがいい、という症状がないんですね。
それが故に発見されにくく、すごく辛いのを我慢していたけれども、実際に調べてみたらホルモンの値が下がっていたという方もいますので、症状がかなり長く続く方に関しましては、一度病院で検査することをお勧めします。
橋本病はどんな年代に発生しやすいですか?
20代から発症する方ももちろんいるのですが、30代以降、40代50代になって診断される方が多いですね。なので、いわゆる中高年にあたる方というのは積極的に検査していただいたほうがよろしいかと思います。
また、男女比でいうと女性のほうが多い病気になります。だいたい男性1に対して女性が20~30というように、かなり高い割合で女性がなりやすい病気といわれています。
ですので、やはり女性は気をつけていかないといけない病気になりますね。全体ですと5人~10人に1人は橋本病の抗体をもっている、と言われています。
橋本病の抗体があると橋本病なのでしょうか?
橋本病の診断をするときに検査する抗体があります。診断する際の一助にはなりますが、抗体をもっているからイコール橋本病というわけでありません。他の病気でも陽性になることがあるからです。エコー像など、他の要素も考慮して最終的に診断します。
また、抗体をもっていても甲状腺のホルモンが正常範囲で保たれている方もたくさんいます。採血したらたまたま橋本病の抗体をもっていることが分かったという場合は、やはり抗体を持っていない方に比べると甲状腺のホルモンが今後下がってくる可能性もありますので、注意して1年に1回くらいの採血はしておいたほうがいいでしょう。
どんな治療をしますか?
ホルモンを薬で補ってあげるという治療法になります。それは、いわゆる身体の中にもある甲状腺のホルモンを飲み薬として飲む治療法です。
一般的には、日本で発売されているのはチラージンという薬になりますので、そのチラージンという薬を量にもよりますが1日1回または2回で飲んでいただくことになります。
このときに気をつけることは、胃薬の種類などによっては、甲状腺のホルモン剤の吸収を悪くさせるものがあります。
ですので、他に飲んでいる薬がある場合は、主治医の先生に相談していただきたいです。
通常は食事のあとに薬を飲むことが多いのですが、状況によっては食事の前に甲状腺のホルモン剤を飲むほうが、非常に効果が出る場合もあります。
橋本病の症状で抜け毛が気になる人もいると聞いたことがあるのですが、甲状腺のホルモン剤を飲むと改善する可能性はありますでしょうか?
橋本病で髪が抜けるひとつの原因としては、ざっくり言うと代謝が落ちてしまうことによって、髪の毛の代謝というか、ターンオーバーがうまく回らなくなってしまって、髪の毛が抜けてしまうことがあります。
甲状腺のホルモン剤を飲むことによって、新陳代謝のサイクルが正常に戻りますので、抜け毛も改善してくると思います。
生理に影響はありますか?
橋本病で甲状腺のホルモンが下がっていると、月経の異常が出ることもあります。非常に経血の量が多くなる症状を言われる方も多くいらっしゃいます。
それに関しましても、甲状腺のホルモン剤を飲んでホルモンの値を正常に戻すことによって、月経のサイクルも正常に戻ってくることが多くなります。
甲状腺のホルモン剤はずっと飲まないといけないのでしょうか?
橋本病は抗体というものが原因になりまして、甲状腺に炎症がおきて、甲状腺のホルモンが下がってしまう病気です。
残念ながらこの抗体というものがなくなる可能性はたまにあるのですが、確率としては非常に低いです。
なので基本的には甲状腺のホルモン剤というものをずっと飲んでいただいて補充していくかたちになります。
治療しながら日常生活は普通に送れますか?
飲み薬を飲んでいただければ、基本的には生活の制限や運動制限はありません。
ただ、食事に関しては海藻類などのヨウ素と言われるものをとり過ぎてしまうと、ホルモンが下がる原因にもなってしまいます。
そうしますと、飲まないといけない甲状腺の薬が増えてしまうことにもなりますので、海藻類などヨウ素を含むものを食べ過ぎないように注意したほうがいいでしょう。
あと、冬の時期になると風邪が流行ってきますが、茶色のヨードのうがい薬を使われる方がけっこういます。
毎日ヨードのうがい薬を使うと、やはり毎日うがいしていくなかで粘膜からヨウ素が吸収されてしまうので、ときどき甲状腺のホルモンが下がって発見されるということもあります。風邪のときなどに限定して使用するのは全く問題ないのですが、常時ずっと使い続けることは避けたほうがいいかもしれません。
橋本病の方が妊娠したとき気をつけることはありますか?
橋本病の方で、もともと甲状腺のホルモン剤を飲んでいる方が妊娠を希望される場合には、まず大前提として甲状腺のホルモンがいわゆる正常値や基準値のあいだに入っていること、またはTSHという採血の項目があるのですが、その値が高くなりすぎていないことが非常に重要になってきますので、妊娠を希望される前に担当医の先生にご相談いただいたほうがよろしいかと思います。
最後に小菅医師から読者にメッセージをお願いします
日本人の5人~10人に1人は橋本病の抗体をもっており特に女性の割合が多いとのことなので、慢性的に疲れいてさらには寒さや抜け毛も気になる方は、血液検査を受けるなどしておくと安心だと思います。
内分泌内科医である小菅由果医師に橋本病の治療法や日常生活の注意点などもお話を伺うことができました。思い当たる症状のある方は参考になさってください。
医科歯科ドットコム編集部コメント
日本人の5人~10人に1人は橋本病の抗体をもっており特に女性の割合が多いとのことなので、慢性的に疲れいてさらには寒さや抜け毛も気になる方は、血液検査を受けるなどしておくと安心だと思います。
内分泌内科医である小菅由果医師に橋本病の治療法や日常生活の注意点などもお話を伺うことができました。
思い当たる症状のある方は参考になさってください。
取材日:2019年10月17日
プロフィール
元聖路加国際病院内分泌代謝科
元伊藤病院内科
日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医
日本甲状腺学会甲状腺専門医