森本稀哲元プロ野球選手と現役医師対談「怪我をきっかけにより高いパフォーマンスを生む方法」

元プロ野球選手の森本稀哲(もりもとひちょり)さんと現役医師でありU12の少年野球・若武者NIPPONに帯同する織田聡先生の対談の第一弾。
テーマは「スポーツにおける怪我と向き合い方」。
対談の中でストレスをモチベーションに変えることも可能だとのことで、森本さんは「うまく怪我を捉えることができれば、怪我をする前よりもパフォーマンスがバコーンと上がるときがあるので。」ともおっしゃってます。現役でスポーツされる方やお子様をお持ちの親御様にもとても参考になる対談です。

選手時代に怪我で苦しんだ時期はどのように過ごしていたましたか

森本さん
怪我したときのモチベーションですよね。怪我は良くないことではあるのですが、意外と怪我をしたときは前向きな気持ちが芽生えるときでもあるんですね。特に僕らプロ野球選手は、ほぼ毎日のように試合をやっていて、どうしても疲れることやネガティブな気持ちになることも多いんですね。僕はファイターズにいたときは北海道なので飛行機で移動をして試合をすることがよくあったのですが大変だなとばかり思ってしまって、その気持ちを癒してくれたのが、じつはヒットを打つなどの結果で、結果が出るときというのはすごく気持ちが癒されて緩和されるのですが、基本的には成功の確率が低いスポーツなので10回振って3回打てれば一流のスポーツなので、失敗が多いスポーツなんです。
そのなかで怪我をして野球ができなくなってしまうと。僕は何度も怪我をしていて、骨折もデッドボールで3回、自打球も含めたら4回くらい骨折しているのですが、そのときに野球ができなくなって、シーズンオフであれば野球はできませんが、シーズン中に野球ができないとなるとものすごく野球がしたいという気持ちになってくるんですよ。
いつも野球をやらなければいけないんですけど、野球ができないとなった瞬間に野球やりたい!という気持ちになってくる。
この気持ちが芽生えるのはすごくいいことで、怪我をして野球ができなかったマイナスはあるけれど、怪我をすることで自分は野球がこんなに好きなんだ、自分はこんなに野球がやりたいんだ、健康であることにこんなに感謝できるんだ、という想いを怪我の期間にこそ考えさせられる、という。
織田医師
怪我は絶対に起きることでゼロではないわけですよね。リスクは必ずあって、出来るだけリスクを抑えるためにはどうすればいいかを皆さんずっと考えていると思うんですけど、僕は今回、若武者NIPPONというU12の少年野球の日本代表に帯同してアメリカに行っていたのですが、そのときすごく感じたことは12歳ですから自分が怪我なんかするとは思っていないわけですよ。
森本さん
そうですね。たしかに僕は12歳のときは怪我していなかったかもしれません。
織田医師
でもじつは怪我というものの根っこは12歳、13歳の頃にすでに始まっているということが分かっていて、森本選手は怪我をしたことで自分は野球が好きだということに改めて気がつくということを言われましたが、子供たちはですね、僕が帯同して身体のケアをどうすべきなのかということをずっとケアしながら教えていったらですね、自分も怪我する可能性があるんだということと身体のケアの重要性に子供たちが気づき始めたんです。
たとえば枕をどうしたらいいんですかとか、普段の食事はどうしたらいいんですかとか。
それまでは、たとえばボールを受けたときはどうしますかとか、野球に直接関係するところに皆さん興味があったのですが、
野球が好きだからこそ普段の生活や身体のケアがいかに大事なのかということに気づいたことが素晴らしいなと思ったんですよね。
森本さん
それは子供たちから野球選手に伝えてあげたほうがいいかもですね(笑)
織田医師
だから怪我は絶対に起きるものだということを子供の頃からきちんと理解して、そのリスクを下げるために普段何をするのか、ということをもちろん選手である本人だけでなく親御さんや関係者、あとチームやリーグですね、制度もそういうことを考えながら決めていかないといけないんじゃないかなと感じています。
森本さん
おっしゃるとおりですね。怪我しないようにプレーなんてできないですよね。フェンス際で怪我しそうだから怪我しないようになんて言っていられないので、出来ることといったら思い切ってプレーをしたときに出来るだけ怪我をしないような準備ができていたかどうか、ということでしかないですよね。
織田医師
いい経験でしたし、これは広めていかないといけないなと思っています。
森本さん
怪我は少ないに越したことはないですけど、すべてをポジティブに捉えると、怪我をした期間にしか分からないこともあります。ただひとつ言えることは怪我をしたときに怪我を防ぐための最善を尽くして準備していたかどうか、というところは確かに見直すべきだと思いますね。
織田医師
怪我をしたときにかえって前向きになれるというのは全ての人が出来るわけではないと思うのですが、稀哲選手はご自身の本にもクヨクヨしないとか、前向きに物事を考えることができるとあったのですが、幼少のときからそういう環境にいてトレーニングなどをされてきたように感じたのですが、前向きになれる何かトレーニングがあるのでしょうか?
森本さん
子供の頃に感じていた前向きな気持ちの根拠は実はあまりないんですよ。
でも、どうせ同じ1日であれば楽しんだほうが絶対にいい、笑って終わったほうがいいし僕も病気を抱えていましたので塞ぎ込んでしまうことも多々あったのですが、最後には周りの目とかそういうものをあまり気にせずに自分らしくするほかない、ということに子供ながらになぜかは分からないけどなんとなく自分で答えを出していて。今だからこそ分かるんですけど、人の目などけっこう気にはなるんですよ、やっぱり。
たとえば、あの人は格好いいなとか思うんですけど、自分は自分にしか出来ないことがあるはずなんですよ。
周りの目を気にしなくなった途端にすごく肩の荷がすとんと落ちて、いいじゃん、自分が楽しいと思えればいいしと。
織田医師
ストレスをうまくモチベーションに変えるということをすごく上手にされてきたんですね。
森本さん
上手くなってきたんだと思います。僕はもともと頭の髪の毛が抜けてしまう病気で、言葉のイメージでいうとものすごく真っ黒な感じでしたけど、だからこそ今はすべてをポジティブに変えられるようになりました。あの当時はなんで俺だけ病気になるんだろう、なぜなんだ?と考えていましたけど、そういうときがあったからこそ今があるという気がしますね。
織田医師
怪我をしたときってどこかでいわゆる受容をしないといけないじゃないですか。
これは、たとえば自分の余命が半年と言われたときに、それを受容していく過程があるわけですよね。それに似ているなというのはあってどこかで受け入れていくけど、最初は怒りがあるじゃないですか。なぜ自分だけがとか、そういう怒りがだんだん収まってきて受容できるようなところにいかに早くもってきて、次に前向きに日々を大事に生きていくか。怪我をしたときといわゆるターミナルケアなどは、医者の立場からいうと非常に似ていると思うのですが、怪我をすることは死にはしないですから、もう少し軽い受容というトレーニングがスポーツにおいて出来るのではないかと。怪我のポジティブな側面ということですよね。
森本さん
そうですよね。怪我をしている期間の受け入れ方で怪我が治ったときのパフォーマンスが相当違ってくるんですよ。
織田医師
それは良い方にですか?
森本さん
うまく怪我を捉えることができれば、怪我をする前よりもパフォーマンスがバコーンと上がるときがあるので。
僕は幸せな事にと言ったらおかしいんですけど、3年連続でデッドボールが当たって3回骨折しているんですよ。
じつ最初は上手くいかなかったんですよ。でも次の2年目からはその経験を活かして、怪我から明けたときの自分はすごく良い状態になっているんだろうなというマインドコントロールやイメージトレーニングを始めて、怪我から戻ったときのパフォーマンスが全然変わってきましたね。
織田医師
僕は僧籍をもっていて坊主でもあるのですが、禅の坐禅を使ったストレスの抜き方というものがあって、最近ではマインドフルネスストレスリダクションというような技術があり、たとえば経営者のかたが坐禅をしに来られたりします。まさに何か不都合なことがあったときに物事を客観的に捉えてそれはそれ、というふうに冷静に受け流すことで普段の生活のなかで仕事のストレスを上手にさばくことができるという、そういうことを座禅ではやるのですが、いわゆる禅の極意というと言葉が違うかもしれませんが、スポーツでも怪我をきっかけに、たとえば仕事であったり人生においても強さというものがスポーツ以外のところにも非常に強く良い影響を与えるんじゃないかな、というふうに今回は子供たちをみていて強く感じたところです。おっしゃるように怪我は良いきっかけになるんじゃないかと思います。
森本さん
禅の話をされたら、僕がお坊さんだと思われそう。(笑)

医科歯科ドットコム編集部まとめ

怪我をしたときのストレスを上手くモチベーションへと変えてきたという森本稀哲さん。
医師である織田聡先生は、日頃の生活や身体のケアの重要性について経験をもとに語ってくださいました。
次回は「どうすれば怪我を最小限に抑えられるか」について引き続きお二人に対談していただきます。
 
取材日:2019年11月1日
 

プロフィール

織田聡
医師 薬剤師 医学博士 僧侶

医療法人社団聡叡会あすかクリニック院長
一般社団法人健康情報連携機構代表理事
LITERRAS MEDICA株式会社 CEO 代表取締役社長
株式会社アクセルレーター 取締役

日本型統合医療を提唱し、西洋医学と補完医療の有機的連携構築が専門。東洋医学的哲学を基盤に、ICTやAIなどを活用した先進的医療にも精通する。現役医師として臨床業務の傍ら、少年野球からe-Sportsまで多くのスポーツ振興に関わり、ヘルスケアデバイスの開発や医療用アイソトープ国産化など種々の事業にも参画している。また、僧籍(臨済宗妙心寺派)をもち、早くから禅の医療や介護への利用を模索している。寺院を活用した地域コミュニティ再生にも期待されている。

 

プロフィール

森本稀哲(もりもと ひちょり)
CKPLAT所属
元プロ野球選手、講演家、野球解説者

高校野球の名門・帝京高校の主将として甲子園に出場。
1999年ドラフト4位で日本ハムファイターズ
(現北海道日本ハムファイターズ)に入団。
2006年には1番レフトとして活躍、チームを日本一へと導く。
その後、2011年横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。
2014年、埼玉西武ライオンズへテスト入団。
2015年9月、17年間にわたるプロ野球人生を終え、現役を引退。

通算成績は、1272試合、3497打数904安打、33本塁打、521得点、267打点、106盗塁、打率.259。
2006年、2007年はパ・リーグ最多得点。
2006年から2008年まで3年連続ゴールデングラブ賞を受賞し、2007年ベストナインに選ばれる。

現在は、経営コンサルティングを手掛ける『CKPLAT』に所属。
野球解説やタレントとしてテレビ・ラジオ出演のほか、講演活動も行っている。

著書『気にしない。どんな逆境にも負けない心を強くする習慣』(ダイヤモンド社)
森本稀哲オフィシャルサイト