【内分泌内科医に聞く】妊娠と「バセドウ病」妊娠する前と妊娠中に気をつけることはありますか?

 
若い女性に多いといわれる「バセドウ病」。
 
妊娠に影響することはあるのでしょうか?
 
聖路加国際病院や表参道の伊藤病院内科に在籍していた、専門医である小菅 由果(こすが ゆか)医師に解説をしていただきました。
 

 

バセドウ病と妊娠について。気をつけることはありますか?

まず、バセドウ病の診断を既にされていて薬で治療をしている人については、大前提として甲状腺のホルモンがものすごく高い状態で妊娠しないように、妊娠する前に甲状腺のホルモンを安定させることが大事になります。
 
基本的には、妊娠中はバセドウ病が落ち着いてくることが多いです。
甲状腺のホルモンの抗体が下がってきて病気として妊娠中は落ち着き、そして出産のあとで、特に半年前後を境にまた再発してくる、そういった経過をとるかたが非常に多くいます。
 
妊娠中は基本的にはバゼドウ病が落ち着いてくる方向にはなるのですが、もともと妊娠したときに甲状腺のホルモンが非常に高い状態だと流産などの原因にもなるので、これから妊娠を希望するかたは、まず甲状腺のホルモンを安定させることを目標にしていただきたいと思います。

 

妊娠の超初期は特に気をつけましょう

また日本や世界のデータでもあるのですが、甲状腺の薬のうちメルカゾールというごく一般的に使われている薬ですが、これを妊娠のいわゆる超初期である5週から9週のあたりで内服していると、胎児に対して奇形や障害が及ぶ可能性が高くなるといわれています。
 
なので、メルカゾールという一般的な薬で治療していて、かつ妊娠を希望しているかたに関しては、主治医の先生と相談してチウラジールやプロパジールという、両方とも同じ成分の薬になりますが、それらの薬へ変更していくことを相談してみてください。

 

チウラジールやプロパジールの胎児への影響について

メルカゾールに比べればチウラジールやプロパジールのほうが胎児への影響が出にくい、というデータがでていますので、特に妊娠の初期に関してはチウラジールやプロパジールへの変更が必要になります。
ただ、妊娠検査薬で分かる頃、という時期はすでに妊娠5週から9週を過ぎていることもあるので、もともと妊娠を希望した時点で、妊娠の可能性がでてくる前に薬を変更することが非常に重要になります。
 
また、妊娠中は基本的には病気が安定して良くなり落ち着く方向にいくかたが多いのですが、それでもTRAbという抗体が高い値になると、その抗体が今度はお腹の赤ちゃんに影響して新生児バセドウ病といって、出産したときに赤ちゃんにバセドウ病の症状がみられてしまうということもあります。
 
どんなに症状が落ち着いていても妊娠中はしっかり掛かりつけ医を受診して、抗体の値やホルモンの値をチェックしてもらったほうがいいと思います。
 
結論として特に注意していただきたいことは、既にバセドウ病の治療をしているかたは、まずはホルモンの値を安定させてから妊娠していただくということと、薬を事前に変更するということですね。
これが非常に重要になると思います。

 

妊娠してから初めてバセドウ病と診断される場合はありますか?

妊娠したあとにバセドウ病と診断されたかたに関してですが、じつは妊娠初期の場合は、どんなに正常な妊娠であっても、甲状腺のホルモンが一時的に高くなることがあるんですね。
 
これは正常な妊娠でも起こるのですが、甲状腺ホルモンが一時的に高くなることで、バセドウ病と間違って診断されてしまい、薬が処方されてしまうこともあるので、産婦人科などで甲状腺のホルモンが高いと言われたら専門医を受診して、それが本当にバセドウ病なのか、それとも正常な妊娠の過程の一部なのか、というところをしっかり診断してもらったほうがいいと思います。
 
もしそれで本当にバセドウ病と診断がついた場合には、妊娠に影響のない薬を用いてバセドウ病の治療をしていくことになります。

 

医科歯科ドットコム編集部コメント

既にバセドウ病の治療をされているかた方は、ホルモンの値を安定させてから妊娠に望むことが大切だと教えていただきました。
また、「妊娠がわかる頃というのは、既に妊娠5週~9週であることが多いので、妊娠を希望した時点で、妊娠する前に薬を検討することも重要です。」と小菅医師。
 
今回は7回に渡って、バセドウ病について専門医の小菅由果医師に教えていただきました。

 
取材日:2019年10月17日
 

プロフィール

小菅 由果医師
元聖路加国際病院内分泌代謝科
元伊藤病院内科
日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医
日本甲状腺学会甲状腺専門医