【医師に聞く!】患者や家族の負担を減らす日帰り手術の普及に取り組む

今回は鼠径ヘルニアの患者さん必見のインタビューです。鼠径ヘルニア手術が年間500件を数える経験が豊富な東京外科クリニックの理事長、大橋直樹先生に治療の方法や手術のやり方など詳細をお聞きしました。

鼠径(そけい)ヘルニアの症状と治療方法

鼠径(そけい)ヘルニアという病気は、腿(もも)の付け根がふくれてくる病気です。
まずはその原因からお話しします。病気の本質は、下腹部の内側の腿(もも)の付け根あたりに発生する穴に腸がはまってしまうことによるものです。それにより体表に膨らみとしてわかるようになります。
次に多くの患者さんに当てはまる特徴としては、仰向けになると、一度症状がなくなるということです。なぜかと言いますと、穴が天井を向くことにより、はまっている腸が穴から下におちるためです。そのため、また立ち上がると同じように腸が穴にはまるという症状を繰り返してしまいます。
我々の仕事は、この穴を閉じることになります。具体的には腹膜をはがして、人工のポリエステルやポリプロピレンのメッシュを埋め込んで、縫合して閉じるという手順です。
こうして新しいお腹の壁ができますと、腸が出ようとしても、メッシュで補強された壁でブロックするためヘルニアの症状は治まります。基本的にはこの手術は一度受ければ、人の一生分は大丈夫です。メッシュの入れ替えの必要もありません。
そして当院では、手術の傷口を小さく済む方法で行っています。従来は、腿(もも)の付け根を5cm~6cm切開して、傷口から内をのぞきながら手術をするものでした。それですと、傷も大きく痛みも強く、患者さんへの侵襲も大きくなります。そこで私どもは傷口を5mmで行う方法をとっています。3ヶ所の傷がありますが、いずれも5mm程度のものですから、従来の方法よりは、痛みも少なく済むと考えられます。それを実現させているのが直径5mmの腹腔鏡です。
この腹腔鏡についたカメラでモニターに患部を映して手術する仕組みです。これがあることにより大きく傷をあけて内を直接見ずにモニター越しに病気の様子を見ることが出来ますので、小さな傷で手術をすることが出来ます。腹腔鏡の技術には訓練が必要ですが、充分な経験を積んだ医師であれば手際よく手術を行うことができ、約1時間程度の執刀で手術が完了します。
また当院ではこの手術の際は、全身麻酔をおすすめしています。局所麻酔でも可能ですが、術中患者さんが1時間じっとしているのは負担でないかと思いますので、全身麻酔で行っています。ただ、心臓や腹部の大手術とは使用するお薬や量も違いますので、術後5分~10分で目が覚めて、その後1時間程休んで、その日のうちにお帰りいただけます。

ヘルニア日帰り手術を実現に向けて

まず手術の構想は、2015年からです。
苦労という点についてですが、実は鼠径(そけい)ヘルニアの日帰り手術自体は、当院より先にいくつかの病医院で取り組んでいらっしゃいました。ただ、日帰り手術を腹腔鏡下で行うことに困難があり、従来の開腹での手術がほとんどでした
その理由の1つは、腹腔鏡での手術は患者さんの痛みが少ないのですが、腹腔鏡の麻酔をかけることに高度な技術が必要になることです。そのため日帰り手術専門のクリニックで導入することが難しい背景がありました。当院では、幸いに日帰り麻酔に造詣(ぞうけい)の深い医師が協力をして、日帰り手術用の全身麻酔のプロトコールを開発していただき、それを導入することが出来ました。さらに、我々外科医が定められた時間内に手術を行うこと、この2つが組み合わさり、一般的には困難と言われていた腹腔鏡による鼠径(そけい)ヘルニアの日帰り手術が提供できるようになりました。

患者さんの年齢層は?

当院ではお子様からご高齢の患者さんまで対応できるようにしていますが、都心という場所柄、30代~50代のビジネス世代の方が多く受診されています。一方で地方の病院で勤務していたころはご高齢の患者さんが多い印象でした。

先生が今後取り組んでいきたい治療や分野

まずは鼠径(そけい)ヘルニア手術で成功した日帰り手術の適用の拡大です。現在も虫垂炎切除や胆嚢(たんのう)ポリープや胆石に対する胆嚢摘出手術、大腸がんの大腸切除は、日帰り手術で出来るようにしております。患者さんの数も徐々に増えてきています。
これからも多くの患者さんに知っていただけるよう努めていこうと考えています。
また小児外科と乳腺外科の患者さんも増えてきています。これら以外にも日帰り手術が可能なものがあれば、その技術を開発して多くの患者さんに提供していきたいと考えています。
お忙しい患者さんや入院できない事情のある患者さんに広く日帰り手術が普及するよう努めたいと思っております。そしてみなさんの社会復帰を早くできることは、社会全体のお役に立てると考えています。
さらに、国の方針にある地域医療の充実の一環に日帰り手術も含まれますが、もっと大きな目で医療を見つめ、高齢者医療・在宅医療などにも医療法人として力を注いでいければと思っています。

病気にかかった際に相談にいく先生は?

この仕事をしていますと、それぞれの医師の考えや哲学、治療方針などよくお話を伺うことができます。
例えばこの病気だったらこの先生にまず聞いてみようとか、この病気ならこの先生がいいなと、私の頭の中で思い描いていることがあります。特に外科の医師は学会や当院で勤務している医師もいますのでその腕前を直で見ていることもありますから、自分が病気になったらこの先生に手術してもらいたいな・・・ということは具体的に思っています。そういったいい先生という情報をみんなで共有できるような仕組みが将来的に出来れば、私も関与していきたいと思っています。

鼠径(そけい)ヘルニアに悩む方へのメッセージ

鼠径(そけい)ヘルニア手術は、当院では年間500件以上行います。落ち着いた気持ちできちんと取り組めば、安全且つ快適な治療を患者さんに提供できると考えています。患者さんにとって、初めて受ける手術に緊張や不安・質問もたくさんあるかと思います。手術をご予約いただいた後もお気軽にご質問や相談にお応えしますし、手術を迷われている時でもまずは一度ご相談に来ていただければ思っています。多くの患者さんの気持ちに寄り添えるよう努めていきたいと思っております。

編集部まとめ

大橋直樹先生からは熱っぽくも詳細でわかりやすいお話をお聞きすることができました。特に患者さんやご家族の負担が少ない日帰り手術にこだわられた点は大変興味深く、また先生方や医院関係者皆さんのご苦労の上に成り立っている手術法なんだということを痛感させられました。引き続き編集部では、患者様の立場に立った最新の治療法等をわかりやすくお伝えしていきます。

取材日:2019年7月3日

プロフィール

東京外科クリニック
理事長
大橋 直樹
平成16年 日本医科大学 卒業
     同年医師国家試験合格、医籍登録
平成18年 初期臨床研修修了した後、
     慶應義塾大学医学部外科学教室助教(平成18年4月~平成22年3月)
     同教室人事にて国立病院機構栃木病院、埼玉社会保険病院、
     慶應義塾大学病院勤務
     日本外科学会認定外科専門医を取得
平成22年 江東病院 外科
平成25年 浅草病院 外科
平成27年 東京外科クリニックを開設
平成29年 東京外科クリニック改組 医療法人社団博施会理事長に就任